大阪・北新地のクリニックで26人が犠牲となった放火殺人事件から、2025年12月17日で4年が経った。
大切な人を失った遺族がいま語りかける相手は、かつて罪を犯した受刑者たち。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:やっぱりまた、出てもやってしまう確率っていうのは高くなる気がしますか?
覚醒剤使用で服役中の男性受刑者:同じような生活してたら、またやってしまうんじゃないかなって思いますね。
犯罪に巻き込まれ、これほど苦しい経験をしたにもかかわらず、なぜ彼女は罪を犯した人と向き合い続けるのか。
■突然兄を失った日「なんで兄のところだったんだろう」
大阪の歓楽街・北新地の入り口にあるビル。
事件以降、その窓に明かりが灯ったことはない。
このビルの前で、兄・西澤弘太郎さんを失った伸子さんは、今も静かに手を合わせる。
弘太郎さんは、ここで心療内科を開き、心の不調に苦しむ多くの人々を支えてきた。
2021年12月17日。4階にあった弘太郎さんのクリニックに男が押し入り、ガソリンを撒いて火を放った。
一瞬の間に火にのまれ、弘太郎さんやスタッフ、患者、あわせて26人もの尊い命が奪われた。
警察の捜査で浮上したのは、患者だった谷本盛雄容疑者(当時61歳)。
しかし、容疑者自身も死亡したため、事件は不起訴となった。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:なんで兄のところだったんだろう。妹という立場で見たときに、何をしていかないといけないのかを考えましたね。
なぜ事件が起きたのか。やり場のない思いを抱えた伸子さん。
兄の患者たちが、ショッキングな事件に直面して今も苦しむ姿を見て、「自分に何ができるのか」を必死に考え続けてきた。

■「自分に何ができるのか」と必死に考え続け…追悼コンサートを開催
容疑者が死亡し、裁判が行われなかったことで、事件についての心の整理がつかない人も少なくない。
元患者や遺族が集まり、少しでも悲しみを癒す場になればと、追悼コンサートをおととしから毎年開催している。
クリニックの元患者:プライベートで空を見上げて亡くなられた方々に思いをはせ、今日も頑張って生きようと思う時があります。
また、弘太郎さんの叔父と叔母は、今年初めてコンサートに参加した。
亡くなった西澤院長の叔母:優しいおいでした。(4年間)気持ち的にいっぱいで、これまでは苦しくて来られなかったんです。
亡くなった西澤院長の叔父:皆さんが集まる場で心をひとつにしたいという気持ちになり、足を運びました。

■医療刑務所での活動「加害者を生まないことは、被害者も生まないことにも繋がる」
2025年3月、伸子さんが訪れたのは医療刑務所。
ここは病気で療養中の受刑者や、その世話係が服役している施設だ。
犯罪被害者の気持ちを知るための取り組みとして、伸子さんに講演の依頼が届いたのだ。
彼女がその依頼を引き受けた背景には、強い思いがあった。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:(受刑者から)『どういうことをしていれば防げたと思いますか?』と質問されました。加害者を生まないことは、被害者も生まないことに繋がります。
私はそこから加害者支援をしようと決めました。特に、再犯を防ぐためにできることは犯罪に至った原因を見つけることではないかと考えています。それを私も一緒にさせていただけたらと。
事件の10年前に、殺人未遂などの罪で服役していた谷本容疑者。
出所した後、孤立と貧困から自暴自棄になり、事件を起こしたとみられている。
「再犯を防ぎ、次の被害者を生まない」 というメッセージは受刑者たちの心に届き、講演後、9人から個別面談の希望が寄せられた。

■遺族が男性受刑者と直接対話「またやってしまうんじゃないかなと…」
今年10月、伸子さんは覚せい剤使用の罪などで服役している40代の男性受刑者と面談を行った。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:(刑務所)を出ても再犯する確率は高い気がしますか?」
覚醒剤使用で服役中の男性受刑者:同じような関係の人たちと付き合ったり、同じような生活をしてたら、またやってしまうんじゃないかなと思います。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:自分ってどんな人間なのかを、ここにいる間に見てほしいんです。強い人間なのか、弱い人間なのか。弱いからダメなわけではなく、それを分かっているかいないかで結構違うので。
覚醒剤使用で服役中の男性受刑者:自分は何が好きだったのかと考える時間がたくさんあります。『俺は歴史が好きなんだな』と思うことがあるので、そういうことに時間を費やすようになって。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:恥ずかしさやプライドもあるかもしれませんが、頼るということをしてください。頼れる、信用できる人がいるかどうかが大切だと思っていて。

■男性受刑者は伸子さんの言葉をどう受け止めたのか
覚醒剤使用で服役中の男性受刑者:刑務所を出た後、一人で社会に戻るのはやはり難しいと思います。『信用できる人に話す』ことは、本当に大事なことだと改めて思いました。
面談を終えた伸子さんは、今の心境をこう語る。
亡くなった西澤院長の妹・伸子さん:再犯の確率が高いと思うので、なんとか防止できる方法を一緒に考えていけたらと思っています。すぐに再犯が防止できるとは決して思っていません。もっと確実なものにするためにどうすべきか、私自身も考えていかなければいけないと思っています。
「悲しみを繰り返したくない」という一心で、伸子さんはきょうも罪を犯した人たちと向き合い続けている。
(関西テレビ「newsランナー」2025年12月17日放送)

