私たちの生活圏にますます接近してくる野生動物たち。
「newsランナー」では、関西地域を中心にサルやクマといった野生動物の出没状況を取材。野生動物が生活権威増えてきた背景に「高齢化」「過疎化」で、動物たちにとって脅威が減り、柿などのエサも放置されているという現状があった。
■サルに“ミラー”を奪われる被害が続出
記者リポート:完全に覆ってますね。車のミラーにカバーですよ。すごいお手製ですね。すごい手作り。
京都府宇治田原町では、今年7月、猿が車のミラーを奪い去るという被害が150件以上も発生した。
住民は手作りのカバーで対策を講じていたが、一体なぜ猿はミラーを狙うのか?
取材班は動物園で検証を実施。
猿の行動を観察していると、ある専門家が興味深い見解を示してくれた。
福知山市動物園 二本松園長:急にちょっと騒ぎ出しましたね。
記者:威嚇ですか?
福知山市動物園 二本松園長:そうそうそう。相手もサルと思っとるみたいで、自分とは思ってませんから。
検証の結果、猿は鏡に映る自分を敵と認識。
壊すことで「勝った」と思い、それが癖になったという可能性が浮かび上がった。
宇治田原町によると対策は行っていますが、被害は今も続いているとのことだ。

■リアル“猿カニ合戦”か 観光地にサルが集団出没
取材班はさらに、兵庫県豊岡市でも猿の出没が増加しているという情報を受け、現地に向かった。
地元の人:仏壇でおばあさんが、ああ、拝んどるわと思ったら実は猿だったという。
日本屈指の温泉街・城崎温泉のすぐ近くでも、猿が頻繁に出没しているという情報が!
(Q.今、蟹がとかでお客さんが多いじゃないですか。そのシーズンにね、猿が大量にいるっていうのは、どうですか?)
かにの宿 華和ゐ 別館 谷本竹司さん:猿カニ合戦かなと。いや、これ笑い話じゃないんですけど、お客様にはユーモアを交えながら案内をしていますが…。
豊岡市では10年ほど前から猿の出没が頻繁に確認されるように。民家に入ったり、農作物を荒らしたりする被害が後を絶たない。そして、取材を続けていくとある新事実が!
地元の人:たぶん増えていると思います。来る回数も増えてるし、数も…集団で20匹~30匹はいると思います。
ここ数年で、街に繰り出してくるサルの数や回数が大幅に増加!豊岡市によると、去年はこれまでで最も多い42頭の猿が確認されている。
市では平日に1日2回、猿が人里に近づかないように見回りを実施。取材班がパトロールに同行すると、住宅の屋根の上を移動する猿を実際に目撃することができた。
記者:こんなに、住宅のあるところに出ているんですね。
豊岡市農林水産課 福岡数やさん:出てます。今、鳴き声聞こえました?
記者:聞こえました。屋根の上ですね。めちゃくちゃ出てきてますね。

■豊岡市の新たなサル対策とは…
豊岡市では今年、被害の拡大を防ぐため新たな対策として、1度で多くの猿を捕獲できる『サル専用の巨大な檻』を導入。
この檻は天井部分が開いていて、サルが一度中に入ると外には出られなくなるよう、檻の上の部分には滑りやすいアルミの板が貼られている。
檻の中には柿やウリ、リンゴといった猿を誘引する餌が置かれていた。
12月から稼働しているが、取材時点ではまだ捕獲された猿はいなかった。

■サルが人里に進撃する理由
なぜサルはますます人里に近づいてくるのでしょうか。専門家は次のように分析する。
野生鳥獣対策連携センター 阿部豪取締役:家庭菜園で美味しいものがいくらでも食べられるし、空き家もあってですね、屋根裏に隠れれば安全ですし、暖も確保できるわけですよね。それがまあ居心地のいい場所だと認識されるようになってきたっていうことかなと思いますね。
人間が怖い対象ではなくなってきたことや、過疎化で空き家なども目立つようになり、猿にとっては安心して過ごせる環境が増えてきたことが要因ではないかと見られている。
野生鳥獣対策連携センター 阿部豪取締役:なんならもっとひどいことが十分起こりうるってことです。非常に悪質化する例も報告されていますので、そういう動物だということは認識しておく必要があると思いますね。

■眠らないクマ 今年度は“過去最悪”の被害
そして今年、私たちに最も大きな衝撃を与えた動物が「クマ」。これまでにないペースで私たちの生活圏に“進撃”している。
クマによる死者は12月5日時点で13人となり、過去最悪を記録。出没が多発する状況に関西でも警戒感は高まっている。
12月21日、京都府福知山市では猟友会のメンバーなど20人近くが集まり、猟が行われた。猟の対象は鹿やイノシシ、そしてクマだ。
この時期、クマは冬眠するはず…だが、なぜ警戒を続けるのか?ハンターから思わぬ新事実が明かされた。
京丹波猟友会 松本宗士さん:従来であれば、今の時期は冬眠するんですけれども、昨今の温暖化ということで、なかなか冬眠の期間が短くなってます。また、クマという生き物は気温だけではなくてね、食べ物がある限りは冬眠しないという性質ですので。
なんと!驚きの事実も。

■クマの驚異的な嗅覚とパワー
取材班は、より詳しくクマの生態について調査するため、岐阜県高山市にある「奥飛騨クマ牧場」を訪れた。
1976年に開園し、国内でも数少ないクマ専門のこの牧場では、現在およそ120頭の日本ツキノワグマを飼育しており、間近で餌をやることもできる。
記者リポート:おやつ、これリンゴです。リンゴを食べ、あ、見てください。
クマは雑食で果物や木の実が大好物。餌がある限り冬眠はしないそうだ。この時期は冬の毛に生え替わっているため、とても大きく見える。
奥飛騨クマ牧場 中村園長:この子特に大きいですよ。この下の子。多分僕と一緒ぐらい立ち上がると170(センチ)とか。体重はもう150キロ。力がものすごく強いので、僕たちも触ることはできません。
大きな体だが、手が器用で、木登りや泳ぎが得意。時速40キロの速さで走ることもできるそうだ。
生後10カ月とはいえ、体重20kgほどの子グマ。爪は鋭く、力も非常に強いといいます。さらに驚きなのがその嗅覚だ。
園長の両方のポケットにリンゴを入れると、すぐに気づき離れようとしない。
奥飛騨クマ牧場 中村園長:匂いですね。嗅覚はもう特に優れてるんで。犬の嗅覚の8倍ぐらいって言われてます。
怖いイメージがあるクマだが、園長はクマ本来の生態について知ってほしいと話す。
奥飛騨クマ牧場 中村園長:警戒心がすごく強くて臆病な動物ですね。やっぱり自分の身を守るため、自分の子供を守るために人に向かっていく…人を食べたいわけじゃないと思います。

■空白地にも出現するクマ 原因を探る
臆病者のクマがなぜ人間の生活エリアに次々出没したのか?
今年はじめてクマが現れた京都の町で独自に調査すると、ある新事実が見えてきた。
ことし10月、京都府木津川市では子供たちが鈴をつけて登校していた。
地元の人:クマが出たんでね。
(Q.いつぐらいからですか?)
地元の人:今年の夏ぐらいじゃないですかね。初めて。怖いですね。
木津川市はこれまでツキノワグマが生息していないとされる「空白地」だったが、今年に入ってから2カ所でクマが確認され、目撃情報はこれまでに60件以上にのぼっている。
newsランナーは京都でドローン事業を行う会社の協力のもと、木津川市の上空から独自調査を実施。
AIやカメラを駆使して24時間かけてクマの居場所を探りましたが、夜通しの調査でクマは見つからず、多くの鹿が生息していることが判明した。
調査した地区は高齢化で住民が減り、空き地や使われなくなった田畑が目立つ。柿も取る人がいなくなり、動物にとって餌が豊富で住みやすい場所になっているという実情が分かった。

■クマ対策先進県・兵庫に学ぶ
今後、どのような対策をすべきなのか?クマの研究を20年以上続ける兵庫県立大学の横山教授に聞いた。
兵庫県立大学 横山真弓教授:クマっていうのはとにかく動き回って、何かこういいものを食べるものを探し続けます。関西圏だったら「柿」ですね。誘引しないように被害防除、畑はしっかり柵で囲う電気柵を設置する。
人間が山に入る機会が減り、10年ほど前から年々クマが増加。山に餌がなくなり人里へ来ているので、食べ物などの誘引物をなくすことが第一だということだ。
兵庫県はクマ対策先進県と言われるほど独自の取り組みを行っている。
兵庫県立大学 横山真弓教授:この15年間、数が増えすぎないよう、個体数管理をしてきました。
兵庫県では、罠で捕獲したクマにマイクロチップを入れて山に戻し、クマの個体数やクマの居場所などを管理し、被害を最小限に抑えているのだ。

■このままでは5年で倍増! “鳥獣職”を全国の自治体に
このままだと、5年後に国内のクマの数は倍増するという調査結果もある。
兵庫県立大学 横山真弓教授:行政の方もね、全然専門のこと分からないで対応せざるを得ない状況なので、やはり専門職の鳥獣職が配置される状況に持っていくべきだと思います。
これ以上被害を出さないため、国をあげての早急な対策が求められている。
野生動物と人間の新たな関係構築が求められる時代となっているのだ。
(関西テレビ「newsランナー」2025年12月26日放送)

