ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で知られる高知市出身の文芸評論家・三宅香帆さん。2025年は紅白歌合戦の審査員に選ばれるなど、活躍の舞台は出版・書籍の世界を越えて広がり、ふるさと高知県では、応援の機運も高まっている。

おらんく生まれの“時の人”

三宅さんは高知市出身の31歳。高知学芸高校から京都大学文学部に進学。大学院では万葉集を研究した。東京の企業でWEBマーケティングに従事した後、文芸評論家として独立した。

昨年4月発売の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)は30万部突破のベストセラーとなり、今年2月、「新書大賞2025」に輝いた。新書大賞史上、最年少、初の平成生まれの受賞者だ。

新書ランキングを席巻する三宅さんの著書(赤枠)(12月11日、高知市のTSUTAYA中万々店)
新書ランキングを席巻する三宅さんの著書(赤枠)(12月11日、高知市のTSUTAYA中万々店)
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その後も、『「好き」を言語化する技術』、『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』、『考察する若者たち』などヒットを連発。紅白歌合戦の審査員にも選ばれ、2025年を“時の人”として駆け抜けた。

ふるさと高知からも応援

“郷土作家”の活躍に地元・高知県も盛り上がっている。

佐川町立図書館は三宅さんの特設コーナーを設置(写真は同館提供)
佐川町立図書館は三宅さんの特設コーナーを設置(写真は同館提供)

「佐川町立図書館さくと」では開館1周年の記念イベントとして、2026年1月4日に三宅さんの講演会を企画。同館では、三宅さんの特設コーナーを設けており、問い合わせや貸し出しも多いという。

冠番組「おらんく図書館」では四万十市出身の歌人・岡本真帆さん=右=とマンガ『A子さんの恋人』について対談
冠番組「おらんく図書館」では四万十市出身の歌人・岡本真帆さん=右=とマンガ『A子さんの恋人』について対談

また地上波テレビでは「初冠番組」という『三宅香帆のおらんく図書館』(「おらんく」は土佐弁で“私の家”の意味)が放送される(高知さんさんテレビ・2026年1月3日放送、放送後にWEB配信も)。

同番組のポスターは県内の図書館や書店などに掲出されているが、そのうち下記7か所のものには、1枚ずつ異なる三宅さんの直筆メッセージが書かれている。
▽オーテピア高知図書館▽佐川町立図書館さくと▽室戸市立市民図書館▽四万十市立図書館▽香南市立野市図書館▽金高堂書店本店▽TSUTAYA中万々店

高知県内の読書スポットに三宅さんの直筆メッセージ入りポスターが掲示されている(写真左は佐川町立図書館、右はオーテピア高知図書館)
高知県内の読書スポットに三宅さんの直筆メッセージ入りポスターが掲示されている(写真左は佐川町立図書館、右はオーテピア高知図書館)

金高堂書店本店(高知市)の亥角理絵店長は「高知出身ということはもちろん、(学生時代にアルバイトとして)書店員をされていたご経験がある。身近に感じてずっと注目していた作家さんです。応援したくて三宅さんのコーナーは常設しています。同じように感じている県内の書店員も多いのでは」と話す。

“他者の声”に耳を澄ませて

文化庁の「国語に関する世論調査」(2024年公表)によると、1カ月に1冊も本を読まない人の割合が6割を超える。三宅さんは、読書の魅力は「自分とは異なる他者の声を聞けること」だとして、SNSなど様々な媒体での活動を通じて「“読むこと”の価値を高めたい」という。

文芸評論家としてのルーツは高知の読書環境にあるという三宅さん(2024年9月、高知蔦屋書店)
文芸評論家としてのルーツは高知の読書環境にあるという三宅さん(2024年9月、高知蔦屋書店)

今年、出版界では、哲学や歴史・文学などへの関心の高まりを背景に「令和人文主義」と呼ばれる新しい潮流が注目された。三宅さんは、けん引者の1人だ。

AIが生活や仕事の中にますます入りこんでくる中、人はどうあるべきなのか?おらんくが生んだ文芸評論家の“声”に耳を傾けてみるのもいいかもしれない。