奈良や箱根で、中国人観光客の減少に伴う観光地の変化が鮮明になっていた。訪日客の約3割を中国人が占めていた奈良では、飲食店がメニューを刷新し、混雑が緩和された「静かな奈良」をアピールして日本人客の奪還を目指している。一方、箱根では一部で中国人観光客が減るなかで、日本人観光客などが戻ってきているという。

中国人客減少も日本人客が回復傾向

24日、年の瀬の奈良公園には、たくさんの観光客がいた。平日だが、かなりにぎわっており、数え切れないほどのシカも集まっている。

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シカとふれ合う観光客の姿だが、いつもの光景と思いきや、そこにはある変化があった。

60代:
減っているのは感じる。

60代:
中国人の方の中国語があまり聞こえない。

毎日シカの様子を見に来ているという男性も変化を感じていた。

近隣住民:
圧倒的に中国の方は減って、日本人が増えましたね。

日中両国の関係が冷え込み、日本への渡航自粛が呼びかけられてから約1カ月経った。

中国人観光客が減少したことで、お隣・京都のホテル価格が下がり始めるなど、余波が広がり始める中、新たな懸念が生まれていたのが奈良県だ。

シンガポールからの観光客:
休暇シーズンも近いし、もっと混んでいると思ったのですが、今日はそこまで混んでいる感じはしないですね。

商店街にある飲食店をのぞいてみた。

飲食店・店長:
10月半ばくらいまで(客の)50〜70%が外国人で推移していましたが、現在15%くらいまで落ちている。中国人の方はめっきり減りました。

国内有数の観光都市と近接することから、奈良は日帰り観光がメインの泊まれない都市とも言われてきた。

奈良市観光協会・髙橋一専務理事:
天気が良かったらすごくいいですけどね。今、興福寺の五重塔はカバーが掛かっちゃっていて、修復に入っていて7〜8年は見えない。

インバウンドで宿泊価格が高騰する京都の「受け皿」になるため、ホテルの開業ラッシュが続いていたが、外国人観光客の約3割を占めてきた中国人客が姿を消した。

奈良市観光協会・髙橋一専務理事:
10月くらいまでは奈良に来る方も多かった。(料金を)下げればいいってものじゃない。

ホテル価格が下がり始めた京都に、観光客が再び流れることを懸念している。

24日午後5時過ぎの奈良市では、まだ人通りがあったのだが、シャッターが閉じていた。多くの店が(午後)5時に営業を終了していた。

取材班:
シャッター閉めていましたけど、お客さんはもう来ない?

カフェ「珈琲一族」店員:
来ないですね。奈良の人は朝の方が早い。

洋服店・店員:
夕方になったらほとんど人通りないから、6時ごろにシャッター閉まってますわ。

家族で奈良を訪れた女性からは、次のような声も上がった。

観光客:
奈良のこの雰囲気が好きなので。

奈良市観光協会も中国人客が減る中、日本人客を取り戻そうと「静かな奈良」をアピールする。

奈良市観光協会・髙橋一専務理事:
奈良はお寺と神社でゆっくり祈って癒やされて学んだりする、そういう街。

一方、関東有数の温泉街である神奈川・箱根町では、次のような声が聞こえた。

観光客:
(中国人客が)ちょっと少ないかな、なんて今言いながら来ました。今までは混んでいたので来られなかった。

観光客:
大涌谷に行かせてもらいました。

観光客:
中国語をあまり聞かなかったと感じました。

一部で中国観光客が減っているが…。

観光客(23日):
21日くらいに行くと決めて来ました。

観光客:
2人で3万円。

取材班:
旅館はすぐ見つかった?

観光客:
泊まりたいところを見つけて、空きを調べたら空いていたので。

その穴を埋めるかのように、日本人観光客などが戻ってきているという。

まもなく年末年始休暇だ。中国人観光客が減ったことで生まれた箱根と奈良、東西人気観光地の変化に迫る。

混雑緩和を好機に「静かな旅」を提案

青井実キャスター:
観光庁が公表している外国人宿泊客の中国人が占める割合です。

2024年、最も高かったのは35.4%で静岡県、奈良は次いで2位だった。東海・関西の方面で中国人観光客への依存が高いことがわかる。

SPキャスター金子恵美さん:
よく東海道新幹線に乗っていますが、満席だったのが少し空いてきたなという印象を持っています。中国人観光客でちょっとオーバーツーリズム気味だったんですが、ダイナミックプライシングで作られた宿泊料金、これが京都と思ったら少し安くなってきたので、日本人の方々も使いやすくなってくるかもしれませんね。

年末年始の宿泊施設の空室状況
年末年始の宿泊施設の空室状況

この抜けた穴に目をつけた日本人観光客などもいるようだが、年末年始、どこが狙い目なのか見ていく。

取材班:
年末年始の宿泊施設の空室状況ですが、箱根のエリアはまだまだ空いてますね。

都心から電車で約90分、箱根の玄関口・箱根湯本だ。

駅から徒歩約15分の場所にある「温泉宿 はこの和」のオーナーを取材すると、意外な答えが返ってきた。

温泉宿 はこの和・竹内さや香オーナー:
今回の件で影響というのは、ほとんどないのが現状です。

1泊朝食付きのプランのみ。併設されているレストランのハンバーガーは、日本人や欧米からの観光客に人気だという。

温泉宿 はこの和・竹内さや香オーナー:
中国の観光客をターゲットにしていた施設(旅館・ホテル)の方は、すごく今苦しいだろうなと…。

箱根温泉旅館ホテル協同組合によると、箱根を訪れる中国人客の割合は約1割だ。

団体客を中心に中国人客のキャンセルが出ているものの、日本人や他の外国人客がその穴を埋めているという。

年末年始は駅伝などで、特に需要が高まる。

今回取材した宿は現在予約で埋まっているが、一人約1万7000円の宿泊施設などがまだ空いている状況だ。

一方、国の天然記念物のシカや東大寺など多くの観光地を抱え、外国人観光客の約3割が中国からの訪日客だった奈良県。

商店街にある飲食店では、中国人客が好んで食べていたという料理をメニューから外すことになった。

飲食店・店長:
あまり生ものを食べないですから、中国の人は。

取材班:
和牛から生ものに変えた?

飲食店・店長:
そうです。

年末年始に空きがある宿泊施設の中には、1万円を切るものもある。

街を取材すると多くの人から聞かれたのは、中国人観光客が減った今、国内の観光客に向けてアピールしたい、静かな奈良の魅力だ。

洋服店・店員:
大阪や京都はにぎやかな夜でしょ。奈良はね、静かな夜がウリなの。

魚万本店・店員:
「昔ながら」が、いい意味でまだ残っている。のんびりゆっくり街歩きができる。

2024年、1万人以上が参加した「路地ぶら」は、散策しながらお寺や神社を巡ったりと、もっと奈良を知ってもらおうというイベントを開催した。

地元住民(68):
鹿せんべいよりドングリの方が好きなので、シカは。

地元住民(60代):
春日大社の裏側の入り口。あそこはものすごく静かです。

地元住民(50代):
関東から友達が来たときに連れて行くのが若草山。

中国人観光客が減った今、国内の魅力を再発見する年末年始にするのもいいかもしれない。
(「イット!」12月25日放送より)