人口約5万4000人の東京・羽村市の水道水は、多摩川沿いの3カ所の井戸(深さ7~10メートル)から汲み上げる豊富な地下水を利用している。その原水は自然ろ過されているため、濁りが少なく非常に良質で、年間配水量の100%を地下水が占める。

地下水の水がおいしいとの評判から「水はむら」というブランドで飲料水として販売し好評をえていたが、21年度に環境配慮の面から製造・販売を終了している。

羽村市の歴史ある水道事業

羽村市と水の歴史は古い。

羽村市は、多摩川が武蔵野台地を削って形成した河岸段丘が特徴で、江戸時代に造られた玉川上水もこのなだらかな傾斜を利用し、多摩川から羽村市を通って江戸の街に供給されていた。

まいまいず井戸(東京・羽村市)
まいまいず井戸(東京・羽村市)
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市内には、豊富な地下水と湧き水があり、地下水の深さが7メートルほどと比較的浅い。古くは平安時代から造られたとも言われている「まいまいず井戸」(水場までの通路が渦巻き状に掘り下げられ、かたつむりの形に似ている)が羽村市に多く存在していたことも、地下水が浅いことと関連している。

羽村市の水道は、市単独の事業として昭和36年に給水が開始されて以来、施設管理や更新が行われている。地下水を利用すると、河川の水を利用した場合と比べて水道水になるまでのコストがかからないため、水道料金も都と比較しても安い価格を維持してきた。

羽村市浄水場
羽村市浄水場

しかし、羽村市の歴史ある水道事業は、人口減少にともない事業継続に関して岐路に立たされている。理由は、人口減少による施設利用率の減少と老朽化する施設の設備投資費用の増加だ。

羽村市の試算によると、年間配水量の低減に伴い、2059年度には施設利用率が3割台まで落ち込み、供給単価が214.2円まで上昇し、使用者の負担が重くなっていくという。老朽化する施設の維持管理費用などについては、2020年度から2059年度までの40年間の施設及び水道管路の更新に係る費用として約201億円と推計している。

11年ぶりに水道料金値上げ

こうしたなか羽村市は2025年4月、11年ぶりに水道料金の値上げを実施した。

値上げしたのは、災害対策、老朽化対策や水道料金収入の減少などが理由だ。羽村市の水道管耐震管率は9.3%で、大地震による水道断水率は67.1%と都内で最も高い割合となっている。

また、水道事業の根幹となっている水道料金収入の減少も歯止めがかからない。23年度の給水収益を5年前の18年度と比較すると約5000万円、5.4%も減少している。節水意識の定着もあるだろうが、大きな要因は人口減少だろう。

羽村市の水道事業継続には、東京都からの技術的・財政的な支援が不可欠となっている。今後、市単独事業として存続させるのか、都の水道局に組み込まれていくのか、という議論も必要になっていきそうだ。
(フジテレビ社会部 大塚隆広)

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。