「冬だから、もうクマは出ない」という認識が揺らいだ現場
「冬だから、もうクマは出ない」その認識が揺らいだ。
12月20日朝、宮城県大和町の山林で、頭部に大きな外傷を負った男性が倒れているのが見つかった。近くには、イノシシ用の罠(わな)にかかったクマ。警察は、男性がクマに襲われた可能性が高いとみて調べている。
現場に入り、実際にこのクマを駆除した猟友会のハンターは、取材に対し「今年は異常だ」と語った。冬の山林で起きた死亡事案は、クマの活動実態と、わな猟の現場が抱える危険を突きつけている。
「近づけない」猟友会からの110番通報
警察によると、通報があったのは12月20日午前8時10分ごろ。
「猟友会のメンバーが家に帰ってこない」「イノシシの罠に生きたままのクマがかかっていて、そのすぐそばに人が倒れているが、近づけない」
猟友会から寄せられた切迫した内容だった。
警察が現場に駆け付けると、道路から約100メートル先の山林で、男性が倒れているのを確認した。

体長1.3メートルのメス 午前9時55分に緊急捕獲
現場には、体長およそ1.3メートルのメスのクマがいた。
イノシシ用の「くくり罠」にかかり、ワイヤーは木に結び付けられていた。午前9時55分、役場職員と猟友会が対応し、クマは緊急捕獲(殺処分)された。
この対応に当たった、県猟友会黒川支部のハンターが応じた。現場到着後、クマの状態を直接確認し、駆除に踏み切ったという。

「完全には動けない状態ではなかった」駆除したハンターの証言
実際に駆除したハンターは、当時の状況をこう振り返る。
「前足にワイヤーはかかっていたが、完全に動けない状態ではなかった。一定の範囲で動ける状態だった」
警察によると、男性が倒れていた場所は、クマの手が届く範囲だった。
ハンターは「罠にかかっているから安全だと思って近づくのは非常に危険だ」とも話す。
「捕まっているクマ」であっても、人の命を脅かす状況は十分にあり得た。

頭部に外傷 社会死状態で発見
倒れていた男性は、仙台市若林区在住の89歳の男性と判明した。
意識はなく、頭部に外傷があった。ハンターによると、男性の右手は複雑骨折しているような状態だったという。救急隊は搬送せず、警察は「社会死状態」と判断した。
傷は激しく、クマによるものかどうかの断定はできないが、「大きな力が加わったようだ」という。死因については、今後、解剖で詳しく調べられる。

なぜ男性は現場にいたのか
町によると、男性は猟友会に所属していたが、大和町の猟友会ではなかった。
家族が男性と連絡が取れなくなり、知人づてに大和町の猟友会のメンバーに相談。イノシシの罠を確認しに行ったところ、発見されたという。
個人狩猟の罠か 「逆襲にあった可能性」
関係者の話では、猟友会の黒川支部が応援を要請した案件ではなく、個人の狩猟目的で仕掛けた罠だった可能性がある。
罠の様子を確認した際、クマの逆襲にあったのではないかという見方もあるが、いずれも推測の域を出ていない。

「錯誤捕獲」の盲点
今回、浮かび上がるのが「錯誤捕獲」の問題だ。イノシシやシカを対象に仕掛けた罠に、別の動物がかかることを指す。
本来は、猟友会や県、町に報告し、駆除や放獣などの対応を取る必要があるという。
実際に駆除したハンターは、現場対応の難しさを踏まえ、「もし個人狩猟中の錯誤捕獲だった場合、処理を一人で行うこと自体が大きなリスクになる」と指摘する。
「今年は異常」駆除した当事者が感じる危機感
このクマを駆除した猟友会のベテランは、強い危機感を口にする。
「本来は冬眠に入る時期だ。12月中旬以降にクマが出没し、さらに人身被害まで起きるのは、今年が異常だ」
現場周辺の住民からも、
「冬はもう出ないと思っていた」
「この辺で人を襲う話は聞いたことがなかった」
といった声が聞かれた。

冬でも終わらないクマの脅威
今回の事案の詳細については、調査が続いている。
それでも、実際に駆除に当たったハンターの証言は、冬でも終わらないクマの活動と、わな猟の現場が抱える危険性を浮かび上がらせた。
被害を防ぐ側が、命の危険にさらされる現実がある。
季節に関係なく、警戒が必要な時代に入っている。

