8月になり、実際に留学生として無事に新学期が始まると、土本さんの学ぶ「国際教育開発」のコースは予想に反し、前年度よりも学生数が増えていた。

このコースの定員は35人で、例年40人ほどの学生が受講するそうだが、今年度の学生数は過去最多の48人だという。

「国際教育開発」の学生たち 大学院のSNSより
「国際教育開発」の学生たち 大学院のSNSより

募集要項には「2年以上の実務経験が望ましい」と記載されているものの、中には大学卒業後にそのまま進学してきた、いわゆる“新卒”の留学生も一定数いるそうで、土本さんは大学側がビザ問題で留学生が減るのを懸念して、例年より少し多めに合格を出したところ、辞退者が少なかったため、結果的にうまく人数がそろったのではないかと推測している。

中でも顕著なのは中国人留学生の増加で、前年度の8人から今年は22人に急増、学生48人の半分近くを中国人留学生が占めている状況だ。

留学生の内訳は20カ国と多様性があるものの、ディスカッションでは自分以外全員中国人という場面もあり、アメリカの高等教育市場の実情について考えさせられることもあるという。

土本周さん:
必ずしも勉強した分野でキャリアを築きたいと考える中国人留学生は多くなく、とにかく海外での学位が本国の労働市場で評価されるため、留学という選択をする学生が多い印象。(開発途上国の教育課題を解決する分野の)「国際教育開発」のコースでも国際協力のイメージを持たずに入学する学生がいたのに驚いたし、アイビーリーグの大学でもこうなのかと。

トランプも折れた 無視できない中国人留学生の重要性

アメリカ全体では中国人留学生の数は年々減少傾向にあるので、土本さんのケースは極端な一例に過ぎないかもしれない。
ただ、ビザ問題に揺れるアメリカでは、この中国人留学生の存在の重要性があらためて浮き彫りとなっている。

ペンシルベニア大学
ペンシルベニア大学

アメリカの大学は一般的に日本よりも学費が高額だが、学生の財政状況や実績に応じて大学から奨学金の給付を受けられることもあり、土本さんも所属元からの奨学金に加え、年間で1万5000ドルほどの給付を大学から受けている。

一方で、中国の留学生は学費を全額自己負担することが多く、たくさんの大学が財政面で彼らの支えに依存している状態だ(ニューヨーク・タイムズより)。

実際に、土本さんの周りの中国人留学生は、ほぼ全員が学費を満額自己負担しているという。

また、アメリカ国際教育研究所などの2023年の調査によると、生活費などを含めた中国人留学生によるアメリカ国内での経済効果は約143億ドル、日本円で2兆円以上にもなるという。

トランプ大統領
トランプ大統領

国務省は当初、中国人留学生のビザを積極的に取り消す強硬的な方針を発表していたが、そうした中国人留学生の経済面での重要性を認識したのか、トランプ大統領はその後、「彼らがいなければ、われわれの大学はあっという間に破綻する」として方針を一転させ、60万人の中国人留学生を受け入れると発表した。

60万人という数は、現在アメリカにいる中国人留学生の2倍以上の規模で、実現するかは不透明だ。

土本さんは、トランプ大統領の判断1つで大学や留学生が振り回される状況に懸念を抱いている。

土本周さん:
留学生は大学の収入源という見方もできるが、アメリカは留学生をイノベーションの源泉とみてきた歴史もあり、自分自身も一留学生となってみて、ビザをめぐる一連の対応や入学後の手厚いサポートから、大学がいかに留学生の価値を重んじているかを感じる。引き続き大学は、トランプ政権の移民政策を注視しながらの対応が求められていくが、留学を検討する側の目線では、自分の手ではコントロールできない政治的な要因が留学可否を左右することがないよう、一留学生として早く状況が解消されることを願っている。