鹿児島の農畜産ブランドの全国的認知度について考えます。
さっそくですが、こちらをご覧ください。
和牛といえば、お茶どころといえば、うなぎの産地といえば、という質問を東京でしてみました。地名で答えてもらいます。
どれも生産量は鹿児島が日本一なんですが、東京のみなさんは果たして何と答えたのでしょうか?
東京のJR新橋駅。
道ゆく人に聞きました。
果たして出てきた地名は?
まずは和牛。
「神戸」
「松阪牛」
「宮崎」
つづいてお茶。
「静岡」
最後にウナギ!
「浜松(静岡)」
「浜名湖(静岡)」
今回11人に聞きましたが、残念ながら鹿児島という答えは出てきませんでした。
和牛、お茶、うなぎの産地として鹿児島の認知度が低い結果と言えそうです。
この中で、和牛については認知度のデータがあります。
食をテーマにした雑誌のアンケート結果なんですが、認知度の上位を占めるのは松阪、米沢、神戸といったよく聞くブランド、鹿児島は真ん中くらい、同じ九州の宮崎、佐賀に及びませんでした。
3年前の和牛オリンピックで日本一を獲得した鹿児島は質、量ともに日本一なのですがなぜ、全国的認知度向上につながらないのか?
PR不足なのでは?と思うかも知れませんが、実はそれ以前に大きな壁があったのです。
それがこちら「第一想起」というものです。
あるジャンルを聞いた時に消費者が真っ先に思い浮かべるブランドや商品のことで、和牛の場合は「松阪」や「神戸」が第一想起と言えます。
第一想起の手ごわさについて取材しました。
様々な分野の専門家が中小企業にアドバイスを行う「県よろず支援拠点」で、この第一想起について聞きました。
県よろず支援拠点コーディネーター・コピーライター 江副佑輔さん
「○○といえば○○というのが第一想起。『先行優位性』という言葉があって、第一想起を取れると消費者や生活者が商品を購入するとき、優位に働く」
こう話すのは広告業界でキャッチコピー作りなどに携わってきた江副佑輔さんです。
その上で江副さんは、「第一想起を覆すのは簡単ではない」と指摘します。
江副さん
「松阪牛、神戸牛が第一想起として強いブランドがあった時、後発組はイメージ払拭が大変。いざ(生産量など)1位を取ったとしても強いところは強い」
このように第一想起が強いがゆえに、1位が認知されていない可能性があるわけですが、とはいえ認知度向上に手をこまねいているわけにはいきません。
県内の和牛関係者は認知度向上のため今、どんな取り組みをしているのか?
取材しました。
美味しそうに焼けている牛肉。
鹿児島黒牛です。
こちらの部位はミスジ。
赤身主体のウデ肉ですが適度な霜降りが特徴です。
坪内一樹キャスター
「柔らかい!赤身のお肉の甘み、旨さと、霜降りの脂の絶妙な混じり具合がバッチリです」
訪れたのは鹿児島市の焼き肉店。
鹿児島黒牛は実は鹿児島で生産された和牛の総称ではなく、JA県経済連とナンチクが出荷する牛肉のブランド。
経済連の担当者は鹿児島黒牛の認知度向上に向け、首都圏の食肉市場へ出荷先を広げているといいます。
JA県経済連・肉用牛事業部 下永吉功一部長
「令和2年(2020年)から東京食肉市場に出荷を始めた。東京の人に鹿児島黒牛という名前を目にする機会、食べてもらう機会が増えてきている」
「全共(和牛オリンピック)で日本一という称号を持っている以上は、日本一の和牛として、消費者へのイメージの植え付け、認知度向上は大事」
鹿児島黒牛以外ではどうなのか?
霧島市国分の窪田畜産を訪ねました。
繁殖から肥育までを手がけるこの農場では、手がけた牛を独自のブランド「窪田牛」として展開しています。
窪田畜産・窪田加奈子さん
「おいしいお肉は確かなので、食べてもらう人を増やして、伝えていける場を広げていきたい」
農業の魅力を発信する「かごしま農業女子プロジェクト」の会長でもある窪田さんが考えているのが、和牛の枠を超えた農家の連携です。
窪田さん
「他のメンバーと付き合いながら、ブランディングも大事なので、仲間づくりにも力を入れて、県外の人に鹿児島を知ってもらい、黒牛も知ってもらう」
また県もブランド牛のPRに力を入れていて、「和牛といえば鹿児島県産」ののぼりやポスターを、県内外の店舗においてもらう取り組みを行っています。
県畜産振興課 畜産流通対策監・上山勝行さん
「神戸牛などに追いつく取り組みをしたいが、認知度を上げるには地道な取り組みが必要」
こうした様々な取り組みが行われる中、第一想起を破るために江副さんが一つの成功例としてあげるのが「宮崎のマンゴー」です。
江副さん
「東国原元宮崎県知事が『マンゴー、マンゴー』と言ったように、しつこく言っていく。特に広告業界ではしつこさが、伝え続けることで、立ち位置が明確化され、○○といえば○○というものが、皆さんの頭の中に浸透していく。(第一想起の)塗り替えは容易ではないが、根気良さ、希望感、一枚岩になってみんなで言っていく」
また、心理学が専門の鹿児島大学・有倉教授が認知度向上に効果的とするのが意外性です。
鹿児島大学(心理学)有倉巳幸教授
「『え、鹿児島が一番だったの?』という驚きをどういう形で創出するか。驚くということは、その内容について記憶に残りやすい」
ここで改めて東京のインタビュー結果をまとめたものを見てみます。
お茶に着目しますと、圧倒的に静岡と答えた人が多いことが分かりますよね。
第一想起に影響するもののひとつが、教科書なんです。
県よろず支援拠点の江副さんは「小学校で習うということは、子どもたちでも知っている。テストにも出ている。教科書の影響は大きい」と話しています。
実際私も小学生の頃、「お茶の一位は静岡」と習いましたし、美川さんもそうだったと思います。
美川愛実キャスター
「はい、私もそうでした」
ただ今回、鹿児島が荒茶生産量日本一になりましたので、茶業関係者は期待を寄せています。
県茶業会議所の光村専務理事は「2024年、鹿児島が荒茶生産量日本一になったことが、教科書になれば大きい」と期待を込めます。
第一想起という壁を前に、鹿児島の日本一を全国に浸透させるのは時間がかかるかもしれません。
それでも私は関係者のみなさんの取り組みを応援し、いつの日か鹿児島が「第一想起」になる日を期待したいと思います。
※「KTSライブニュース」2025年12月16日放送より
※ 動画内の時刻表示は放送日のものです