京王線東府中駅のそば、府中市の住宅街のど真ん中に広大な森が残されている。

在日米軍基地があった場所で一部を除いて昭和50年に返還されたあと、14.9ha、東京ドーム約3.2個分が留保地として現在も使われていない。

赤い部分が「留保地」(府中市HPより)
赤い部分が「留保地」(府中市HPより)
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現場へ行ってみると、国有地の中に空にそびえたつ巨大な鉄塔がいまだに残されている。

通信施設として使われていたという。

東京都内で、広大な空き地を見つけることは非常に難しい。

土地が広ければ使える用途の幅が拡がり、街の発展にも大きな影響を与えることになる。

この土地の利用について国は、国立美術館収蔵庫を建設する方針を示したほか、府中市では、2020年、低層住宅や医療・福祉施設を誘導するほか、商業施設などを整備する土地利用計画を策定した。

しかしその1年後の2021年、在日米軍が返還してこなかった土地が返還され、米軍府中基地の全面返還が実現し、一体的な土地利用の検討が可能となったほか、国立美術館収蔵庫計画が白紙化、府中市でも計画の見直しが決定された。

そして2025年5月、新たな土地利用計画案を公表、前回の計画案と異なり、自然や環境保全を重視した計画に見直された。

計画の見直しには、国の自然環境調査の結果が大きな影響を与えている。

東京都の保護上重要な野生生物種「レッドリスト」に位置付けられているオオタカの営巣や繁殖が確認されたほか、フクロウ、アナグマなど24種の希少動植物の姿も確認された。

府中市では低層住宅や商業施設が立ち並ぶ2020年当時の計画を撤回し、希少な猛きん類等の生息環境を保全するために、当面の間、計画用地の約半分を現状のまま保全する方向で計画案を見直したほか、市が活用する公園を整備し、その公園内に現在の府中市立総合体育館を移転させる新しいプランを発表した。

計画案は、2025年度中に国に提出され利用計画の見直しが完了する予定だ。

米軍基地返還後の跡地が低層住宅や商業施設となった事例は、枚挙にいとまがない。

府中市の、経済優先ではなく市内にある貴重な自然を次世代に残す、という判断はまれなケースだといえる。

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。