福井県内の魅力を再発見する「小旅」のコーナーでは、まもなく和紙作りの最盛期を迎える越前市五箇地区を訪ねました。
越前市の中心部から「和紙の里通り」を通って五箇地区に向かうと、見えてくるのは道路をまたぐように建てられた朱色の大きな鳥居。
全国でも珍しい紙の神様を祀る岡太神社・大瀧神社の鳥居です。ここ五箇地区では、約1500年前から「神」に見守られながら「紙」を作り続けています。今も約40軒の工房が軒を連ね、多くの工房では和紙作りの様子を見学することができます。
そのうちの一つ、創業100年を超える老舗の工房「五十嵐製紙」を訪ねました。
この日は、年末に需要が増えるふすま作りの真っ最中でした。気温が低いときめの細かい綺麗な和紙になるため、この時期に漉いた和紙は「寒漉き」と呼ばれ、特に品質が良いとされます。
4代目の五十嵐匡美さんは、伝統工芸士の資格を持つ越前和紙の職人ですが、いま力を入れているのが「越前墨流し」です。
平安時代の貴族の間で始まったと言われ、1000年以上この地区で受け継がれてきました。
しかし4年前、地区で最後の「越前墨流し」の職人が亡くなってしまったのです。
亡くなった職人の技を近くで見ていた匡美さんは「越前墨流しの文化が廃れてしまうのではないかと危機感があった」とその技術の習得を目指すとともに、伝承活動にも励んでいます。
この「越前墨流し」、実はこの工房で体験することができます。容器に水を張り、赤や紫、青など色のついた墨を含ませた筆と墨をはじく特殊な液体を含ませた筆で模様をつけていきます。
筆の先が水面に触れると、墨の色が円状に美しく広がっていきます。
武田祐季アナウンサー:
「水面を見ていると心が浄化されていきますね。ほっとします」
水面に墨を乗せ終わったら、うちわで風を送り模様を動かしていきます。最後に和紙を水面につけ、墨を写し取って乾燥させたら完成です。
匡美さんは「越前和紙の素晴らしい紙を漉いて、後から墨流しで装飾をするというのが大好きなので、もっとみんなに知ってもらえたら」と話します。
墨流しの他にも、越前和紙を使ったさまざまな体験メニューが。和紙灯りや、この時期らしい雪だるま灯りなども作れます。
越前市五箇地区の文化が息づくこの場所で地域の歴史に思いを馳せ、伝統工芸に触れてみてはいかがでしょうか。
【岩本神社/五十嵐製紙所】
▼アクセス:武生インターチェンジから車で10分ほど。(越前和紙の里からは車で約3分)
▼体験は事前予約制のため、電話で問い合わせを。