世界中自由に旅をしながらIT技術を駆使して働く「デジタルノマド」との交流を通じて、地域活性化を図る下田市の取り組みを追った。
新しいライフスタイル「デジタルノマド」に注目
静岡県下田市にあるワーキングスペースでパソコンやタブレットに向き合う様々な国籍の人たち。
場所に縛られることなく世界各地を旅しながらIT技術を使って仕事をする「デジタルノマド」と呼ばれる人たちだ。
日本政府はこうした人々を国内に誘致するために2024年から日本版「デジタルノマドビザ」を発給するなど特別な対応を開始している。
一体彼らはなぜ下田市に集まってきたのか?その背景を探った。
交流を通じて考えるキッカケに
国境を越えた関係人口の拡大を目指して2024年からデジタルノマドの呼び込みに向けた取り組みを進めている下田市。
11月に2024年に続き2度目の交流プログラムを1カ月にわたって開催し、国内はもちろんのこと、ニュージーランドやインドネシア、韓国や台湾などから延べ100人あまりが参加した。
この交流プログラムを運営するELENTO合同会社・塚田絵玲奈 代表は「地域の事業者など地域と外から来る人たちがより良いものに向けて、地域の担い手として一緒に何をどうできるかを考えるきっかけになったらと思っている」と今回のプログラムの狙いを教えてくれた。
この日は、市内でところてんの製造と販売を手がける老舗の協力で「ところてん作り」を体験。
出来上がったところてんを黒蜜やきな粉など様々な味にして楽しんだ。
参加者からは「こんな美味しいところてんを食べたのは初めてなので、もっといろんな人に食べてほしい」「とてもおいしい、健康的な味」といった感想が聞こえてきた。
スマートフォンを片手に様々なシーンを撮影していた参加者たちはSNSを通じて下田の食文化を発信すると言う。

今回の体験イベントに協力した西林商店5代目・西川裕大さんは「外国の人と触れ合う機会だったので、将来的に海外で少しずつ『ところてん』という文化が広がり、日本の食文化、伊豆の食文化に興味を持って下田に来てくれる人が増えていったら嬉しい」と話した。
高校生の悩みに向き合うノマドワーカー
「いま自分がやってる好きなことを仕事にしようか、ちゃんとした仕事か、ちょっと悩んでいる」と高校生が悩みを相談したのは韓国出身のデジタルノマドのイェジ・チェオンさん。
「一番大事なのは自分が本当に何をやりたいのか。それは大人になっても、この年齢になってもずっと問い続けるのが自然」とイェジ・チェオンさんはアドバイスした。
これは、地域との関わりをより深めるための地元の高校生との交流会だ。
ウェブデザインの魅力を伝えるだけでなく、キャリアデザインに関する悩みを受け止め、意見を交わした。
参加した高校生は「自分の将来の道にも役に立ったし、好きなことにも挑戦するのは大事なことだと思った」と大いに刺激を受けたようだ。

一方、イェジ・チェオンさんも「世の中にはいろんな生き方、働き方があるということをわかってもらえたと思う。好奇心を広げることができたかなと思うとうれしい」と高校生との交流に意義を感じていた。
何気ない“日常”が魅力に
デジタルノマドが行く先々で滞在する期間は様々だが、中には1カ月以上も同じ場所に留まることもあり、その地の生活に溶け込むことが彼らの“流儀”だ。
コンビニで買い物を済ませた1人に「何を買った?」のか尋ねるとスナック菓子を見せ、「それと…プリン。これ、すごくおいしい」と笑った。
彼は日本のコンビニが気に入ったようで「ほぼ毎日来ている」と教えてくれた。
ただ、下田市にはノマドワーカーに適した長期間滞在しながら仕事を出来る施設が少ないのが現状だ。
そのため市から交流プログラムの運営を委託されている塚田さんは市街地の物件を自ら取得した。
この日はそこにデジタルノマドが集まり夕食会が開かれていた。
そこで調理をしていたスイス出身のセブリンさんに「母国の料理?」と聞くと「そう。オリジナルのスイス料理。コミュニティーディナーとしてみんなに食べて欲しい」と返ってきた。
「みんなでご飯を囲み、昭和レトロな感じの所で食べられるのは落ち着くかなと思う」と話す塚田代表は、ゆくゆくはデジタルノマド同士が情報交換したり、親交を深めたりするノマドワーカーにとっての拠点に成長させたい考えで、こうした何気ない日常こそデジタルノマドを惹きつける要素の1つだと言う。
「ただいま」「おかえり」の関係に
さて、今回初めて下田を訪れたデジタルノマドは何を感じたのだろうか?

台湾から参加したアンドリューさんは「このプログラムに参加出来てとても嬉しい。下田の人たちはとても親切で協力的。地域との深いつながりがあると感じたので、またいつか下田に戻ってきます」と約束してくれた。
また日本人参加者の小泉公平さんは「(下田は)アットホームな感じで、みんなとすごく近い距離で支えあっている温かいコミュニティーで、それがすごい好き。また絶対下田に帰って来たいと思えるような経験をさせてもらった」と話した。

塚田代表は「『ただいま』『おかえり』というのが、いろんな所で生まれていくような流れになっていったら良い」と今後の展開に期待を寄せる。
「ただいま下田」というプロジェクトの名前の通り、今後も様々な取り組みを通じて下田という街や人にどれだけ愛着を持ってもらえるのかが「ただいま!」とデジタルノマドが戻って来てくれるのかのカギを握りそうだ。
(テレビ静岡)
