シリーズでお伝えしている『2025くまもとニュースの深層』です。
2回目の9日は『裁判』です。
車をバック走行させ、2人を死傷させた罪に問われた男の裁判員裁判のほか、年明けにも裁判のやり直し・再審を開始するかどうか判断が下される『菊池事件』について弁護団の思いを取材しました。
「殺すつもりは全くありませんでした」
山鹿市で宅配業者を装い、元部下の女性宅に侵入、殺害するなどした罪に問われた男。
裁判では一貫して殺意を否認したが、熊本地裁は殺意を認め、懲役18年を言い渡した。
また、熊本市の繁華街で、女性従業員3人に対する殺人未遂の罪に問われた元飲食店の店長の男には懲役20年の判決が下った。
【遺族代理人・籾倉 了胤 弁護士】
「いかなる処分が下ったところで被害者にとっては終わりのない事件であり、法の中ではきょうが一区切りだが、被害者にとっては〈終わらない事件の一過程〉にすぎない」
熊本市中央区で酒気帯び運転で車をバック走行させ、女性2人をはねて死傷させたとして危険運転致死傷罪などに問われている男に熊本地裁は求刑通り懲役12年の判決を言い渡した。
この判決を不服として被告側は控訴していて、12月22日に控訴審判決が福岡高裁で言い渡される予定だ。
司法への理解を国民に深めてもらおうと2009年に始まった裁判員制度。
熊本地裁では今年、7件の裁判員裁判が開かれた。
この中には初めての無罪判決も…。
ベトナムから日本に偽の旧1万円札を輸入し、両替などをしたとして偽造通貨輸入などの罪に問われた元技能実習生の男性が無罪となった。
このほか裁判員裁判以外の事件でも業務上横領などの罪に問われた男女3人に無罪判決が言い渡されていて、いずれも検察は控訴を断念している。
このうち二つの事件を担当した村山 雅則 弁護士は…。
【村山 雅則 弁護士】
「争っている事件についてそれなりに無罪判決が出ているのは裁判所が事件に向き合って有罪の立証がきちんとできているのかと厳しく判断している部分はあると思う」
裁判所の判断については評価する一方で、検察に対しては厳しい評価を下す。
【村山 雅則 弁護士】
「無罪判決が出るのはいいことではない。基本的には身体拘束が続く。その間の負担感などを考えると、『無罪判決が出たから良かったね』という話ではない。刑事補償はあるが。起訴すべき事件は起訴すべきだが、検察官の負っている使命や義務は大きい」
こうした中、「開かずの扉」と言われる再審・裁判のやり直しをめぐり、年明けにも『菊池事件』が重要な局面を迎える。
【原告弁護団・徳田 靖之 共同代表】
「この事件はどんなに時間がかかっても真実を明らかにしていかなければいけない。私たちの国で〈憲法の守り手〉という地位を与えられている裁判官のいわば〈良心〉というか〈良識〉に期待するしかない。まともにこの事件を見てもらえれば再審開始しかない」
『菊池事件』の弁護団、徳田 靖之 共同代表は再審開始の決定に期待を寄せる。
『菊池事件』は殺人などの罪に問われたハンセン病元患者の男性が菊池恵楓園などに設置された『特別法廷』で死刑判決を受け、その後、死刑が執行された事件だ。
この事件を巡っては「特別法廷での審理は憲法違反」との熊本地裁判決が確定し、男性の遺族が熊本地裁に『再審』、裁判のやり直しを請求した。
弁護団は、これまでの協議で「当時の刑事裁判手続きの憲法違反が再審の理由になる」とする『憲法的再審事由』を主張。
男性が無罪であることを示す新たな証拠も提出した。
【原告弁護団 徳田 靖之 共同代表】
「一つは死刑執行された人に無罪を言い渡すかもしれない。死刑制度を揺るがすことになるかもしれない。もう一つは憲法的再審事由を認めることも例がない初めてのこと。長い戦後の歴史の中で例がないことを自分たちがやることに、プレッシャーやハードルの高さを感じないわけにはいかないだろうなという思いもある。日本の法曹界、法律家が歴史において深い過ちを犯してしまった事件であり、この過ちをどう償うのかということが問われている」
こうした中、高市総理は11月、国会で「菊池事件」について次にように言及した。
【高市 早苗 総理】
「尊厳を傷つけ、筆舌に尽くしがたい苦しみを与えてしまったこと、亡くなった本人もそうだが、家族の皆さまに深くおわびを申し上げる」
ただ、徳田代表は、『菊池事件』の取り巻く現状に危機感を募らせている。
【原告弁護団・徳田 靖之 共同代表】
「〈ハンセン病問題は終わった〉という関心の低下の中で、なおかつ再審請求という公開されない形で行われているので、再審事件はそれなりに社会的に認知されているが、菊池事件は知られていないということを痛感している」
こうした現状を打破しようと、徳田代表は全国各地で講演会を実施。菊池事件をテーマに取り扱った映画『新・あつい壁』の上映などを通し、凶器の捏造や供述の誘導といった偏見や差別に基づいた当時のずさんな捜査体制について問題提起を行っている。大分県で行われたこの日の講演、徳田代表は次のような言葉で締めくくった。
【原告弁護団・徳田 靖之 共同代表】
「再審開始になると確信しているが、仮に不当な決定が出たとしても、私は命を懸けても吉村さん(仮名)の無実を晴らすために闘い続けるつもり」
ことし5月には、男性の無実を訴え続けた、菊池恵楓園入所者自治会の会長、志村 康さんが92歳で他界するなど、当時を知る関係者の高齢化も進んでいる。
一刻も早い解決が待たれる『菊池事件』。
熊本地裁は年明け1月中に再審開始の可否を判断するとしている。