教訓活かせ…死者・行方不明者5098人“伊勢湾台風”の記憶

2020年は、東海地方で5千人以上の犠牲者を出した伊勢湾台風から61年になる。今後、伊勢湾台風を超える勢力の台風が列島を襲う可能性が指摘される中、再び犠牲者を出さないため、今、自治体の枠を越えて遠くに避難する「広域避難」という取り組みに注目が集まっている。

この記事の画像(23枚)

被害にあった女性は、61年前のあの日、家族と旧十四山村の自宅にいた。

伊勢湾台風で被害にあった女性(75):
善太川が2か所、堤防が切れたんです。大きな台風来るからといって雨戸を立てたり、備えていた。30分もしたら水がワーッときて、あっという間に床上まで来て、畳がプカプカ浮きだして

昭和34年(1959年)9月26日、東海地方を襲った伊勢湾台風。猛烈な雨や風…。濃尾平野一帯は高潮に襲われ浸水。死者・行方不明者は5098人に上り、海抜0メートル地帯では数か月間も水に浸かったままの地域もあった。

自治体の枠を越えて命守る…「広域避難」

このところ相次ぐ台風や豪雨による被害。伊勢湾台風やそれを上回る脅威が再び東海地方を襲う可能性も指摘されている。私たちはどう身を守ればよいのか。

今、注目を集めている取り組みが「広域避難」。一般的に市町村はそれぞれの自治体の小中学校などに避難所を設ける。

しかし、例えば水害に見舞われる恐れがあるものの、平野が広がっていて避難する場所がない場合、自治体の枠を越えて避難しようというのが広域避難だ。

この広域避難を実際に大規模に行った町がある。

茨城県西部にある境町。人口2万4000人、江戸時代から利根川の海運で栄えた一方、その氾濫に悩まされてきた。想定では、利根川が氾濫すると町の9割が浸水するとされている。

2019年10月の台風19号、いわゆる東日本台風の際も氾濫の危険が迫った。

利根川沿いの地区の区長はこの時、町の呼びかけに応じて実際に広域避難を行った。

境町下仲町地区の区長:
有線放送が流れたんです、町長の言葉で「避難しろ」って。利根川切れたらおしまい。ここにいる町内の人はわかっている。それですぐ行動を起こして、もし避難するなら坂東総合高校へ、それは頭の中では分かっていましたから

避難先は車で15分ほどかかる隣の坂東市の高校。普段から周知されていたため、自家用車で乗り合わせて向かい、大きな混乱はなかったとのこと。

この時、利根川は氾濫しなかったが、町の人口の4分の1にあたる約5900人が周辺の自治体に広域避難。遠藤さんも広域避難を理解する貴重な経験になったという。

境町下仲町地区の区長:
空振りでもいいんですよ、何もなければ。実体験も経験できるし、教訓もできる。本当に(水害が)あっては困るんです。無駄でもいいから早め早めがいい

境町の町民がスムーズに広域避難に踏み切ったのは5年前、関東東北豪雨による被害の経験があったからだ。

茨城県の境町の橋本正裕町長:
自分の地域が(浸水想定が)どれくらい深いか。7mや9mの場所は2階でも助からないので、それを分かって頂いてきている。この地域はこれだけの人が亡くなるから、やはり広域避難しかないと言い続けたのが実施に役立ちました

広域避難に必要な「住民の理解と協力」

こうした広域避難の取り組みは三重県木曽岬町でも。

木曽岬町は、ほぼ全域が海抜0メートル以下。伊勢湾台風の時も高潮による浸水などで328人の犠牲者が出るなど、大きな被害を受けた。

しかも、懸念される伊勢湾台風を上回る「スーパー伊勢湾台風」が発生した場合、木曽岬町は高潮などにより全域で浸水するとされている。そこで浮上したのが、広域避難だ。

木曽岬町は、浸水の恐れがない広域避難の先として、いなべ市や東員町と提携。大規模な水害に見舞われる恐れがある場合に、約20キロ離れた2つの市と町の避難所で町民を受け入れてもらうことになった。

町は防災訓練でバスを用意し、実際に避難させるなど広域避難にむけて準備を進めてきた。ところが…。

ーーいなべ市や東員町に逃げる話を聞いたことは?

木曽岬町の住民A:
無いです。ここ(町の庁舎)に避難してと聞いている。遠いので、考えますね

住民B:
今のところ、その(広域避難する)気はないですね、うちで2階に上がったら何とかならないかと

町民に理解が深まっているとはいえないようだ。しかもスムーズに避難してもらうため、被害が予想される2日前から避難するよう求められているが…。

住民C:
自分が実際避難するとなるとまだ早いかなと。(2日前だと)どうなるかわからないので、色々なものを用意して、じゃあ行こうという気にはなれないかも

木曽岬町危機管理課の担当者:
正直、現段階では、まだまだ理解度は浅いと感じています。ただ命を守る行動は大切ですので、広域避難の重要性を丁寧に説明して、訓練もできればやっていきたい

専門家も住民の協力が得られないとスムーズな広域避難は実現しないと指摘している。

東京大学・片田教授:
(行政からの)情報を受けて行動をするのは住民の皆さんです。住民がこの問題を直視し、1人1人が自分の命、家族の命、地域皆の命を守れるようしっかり対応しないと、防災の効果は何も発生しないです

年々巨大化、深刻化する台風・豪雨災害。悲劇を繰り返さないようにするため、私たち1人1人の行動がカギを握るといえそうだ。

(東海テレビ)