後を絶たない『介護疲れ』による事件。

『介護疲れ』による殺人事件や心中事件はここ30年ほどの間に、毎年平均39件。9日に1件のペースで発生していることになります。

両親の介護に直面する女性は、「なんで親を殺したのって思う人いないんじゃないかなって。どんなに親がいなかったら楽だろうなって思うから」と話します。

背景にあるのは『介護サービス拒否』。

94歳の認知症の母親に暴行を加え、死亡させた罪に問われている元弁護士の男は「介護サービスを受けるように繰り返し説得を続けても、なかなか受け入れてくれずいら立ちが募りました」とその“絶望”を裁判で語りました。

その実態を徹底取材しました。

■「親を殺したりする事件を見ると…あ、そうよなって」

神戸市に住む60歳のえみさん(仮名)は、認知症の母親(87)と2人で暮らしています。要介護認定を受けている母親は、頻繁に排泄の失敗があり、えみさんはつい、いら立ちをぶつけてしまうこともあります。

【えみさん(仮名)】「『なんでも私がしないといけない』って。『1人でやらんでもいいやん、誰かに頼ったらいいやん』って言われるけど、頼れる人がいないのが現状かな」

えみさんの介護生活は、15年ほど前に父親がパーキンソン病になったことから始まりました。

金銭的な余裕がないため施設への入所は諦め、4年前に父親が亡くなった後、今度は母親が認知症に。

本当はもっと働きたいのに働けず、経済的な負担も大きくなる。そんな『出口なき介護』と向き合っています。

■“9日に1件のペース”で発生する”介護疲れ”による殺人・心中事件

【えみさん(仮名)】「親を殺したりとか、奥さんを殺したり、旦那さんを殺したりっていう事件をニュースで見ますけど。その人たちの心の中は分からないけど『あ、そうよな』って。『楽になりたかったんや』って。

我慢して我慢して我慢してっていう状況を打破したかったが、最終間違った判断で殺しちゃったんやと」

日本福祉大学の湯原悦子教授によると、”介護疲れ”による殺人事件・心中事件は毎年平均39件起きています。

“9日に1件”のペースで発生していることになります。

■「介護サービスを受けるよう説得しても話を聞いてくれず…」

一体なぜ、介護をめぐる事件はなくならないのか。その背景の1つとみられるのが、家族の『介護サービス拒否』です。

去年5月、94歳の母親の顔面に頭突きをしたり、盆で殴ったりしてけがをさせ、死亡させた罪に問われている東大阪市の元弁護士、高田豊暢被告(59)。初公判で高田被告は、概ね起訴内容を認めました。

弁護側の陳述によると、母親は認知症で高田被告がデイサービスを利用するよう繰り返し提案するも、施設に入れられると思い込み、その提案を拒否。

高田被告はいら立ちから酒に頼るようになり、精神的に不安定な状態となる中、母親に暴行を加えたと主張しました。

【高田豊暢被告】「前から母は介護入所施設に入ることを頑なに拒んでいて、話を聞いてくれない。話が噛み合わないことがほとんどで、こんなに本気で考えているのに、なんで話を聞いてくれないんやろうって、いら立ちをぶつけてしまったんだと思います」

■「本人の了解なければ介護サービス自体がうまくいかないと思ってました」と被告

3日の被告人質問では…

【検察】「介護施設や福祉の担当に間に入ってもらおうとは考えませんでしたか?」

【高田豊暢被告】「結局、私が説得して本人の了解がなければ、介護サービス自体がうまくいかないと思ってました」

高田被告は、精神鑑定で、当時、うつ病とアルコール中毒であったと診断されていて、裁判では、精神状態を踏まえて量刑が争われます。

また先月には、東京都国立市で、102歳の母親を殺害した罪に問われた71歳の娘に、執行猶予がついた判決が言い渡されました。

裁判では、母親が数日施設で預かってもらうショートステイを頑なに拒否するなどして、娘が追い詰められていったことが明らかになっています。

■「両親の願いを叶えれば叶えるほど自分の時間がなくなっていく…」

最悪の事態を招かないために、『介護サービス拒否』をどう乗り越えていけばいいのか。

その答えを探ろうと、取材班が訪れたのは、全国で介護事業を展開する「ツクイ」の執行役員、原優実さん(54)。5年前から両親の介護をしています。

原さんの父親(95)は認知症の症状があり、母親(82)も足腰が弱く、要介護認定を受けていますが、当初は強い『介護サービス拒否』があったといいます。

【原優実さん】「そういう人(介護スタッフ)が入ると、自分が介護という状態になってるんだっていう風に受け止めなきゃいけない。それが嫌だって言われたんですよ。

(両親は)まだ自分ができる範疇のところは自分でしたいって言うんですけど、それをすればするほど、叶えれば叶えるほど、私の時間がなくなっていく」

■親が第三者の介入を受け入れるのに2年半 第三者が入ることの抵抗感を下げるには

こうした中でも、粘り強く両親と向き合い続け、母親が自宅での訪問リハビリを受け入れてくれたのは、介護が始まってから2年半後のことでした。

「私も仕事好きだし、続けたいから、(介護サービスを)お願いをしないと続かないよ。この生活。もう私自身がしんどい」と両親に伝えた原さん。

【原優実さん】「そこで母親がふっと気づいたのかな。『分かったわ』って言って」

原さんは、「親が介護サービスを受け入れるのに葛藤するのは当然」とした上で、もっと前から、第三者が家に入ることに備えておくべきだったと話します。

【原優実さん】「家事代行サービスとか色々あるじゃないですか。ああいったものをちょっとでも使い慣れていたら、第三者が入ることの抵抗感ってちょっとハードルが下がるような気がしていて」

誰しもが直面するかもしれない現実。個人の問題ではなく、社会全体で向き合うことで救われる人がいます。

■「介護をタブーにしないことが大切」西脇弁護士

元テレビ朝日アナウンサーの西脇亨輔弁護士は、「介護をタブーにしないことが大切だ」と指摘しました。

【西脇亨輔弁護士】「刑事裁判の現場でも、介護疲れによる悲惨な事件が相次いでいる。どうやったらそういったものを避けられるんだろうと考えてみると、一つの助けになるかもしれないのが、まだお元気なうちに日頃から介護の問題をご家族みんなで話し合っておく、そして理解を深めておくということです」

西脇弁護士は、多くの人が自分の弱った姿を他人に見られたくないという気持ちを持っていることに理解を示しつつ、「人は誰しも生まれた時には赤ん坊として人の助けが必要だったように、長く生きていれば再び人の助けが必要になる時期がある」と話しました。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年12月3日放送)

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