「長屋門」の魅力を伝えるプロジェクト

栗原市に点在する長屋門のひとつ
栗原市に点在する長屋門のひとつ
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宮城県栗原市ののどかな田園風景に、ひときわ存在感を放つ建物がある。「長屋門」だ。

長屋門は、伝統的な上級武家の住宅に見られる門形式の1つで、家臣や使用人などの部屋と門が一体となったもの。

全国に残る長屋門の多くはすでに姿を消しているが、栗原市にはなんと500棟以上が現役で残っている。
市が調査した結果、市内に543棟が確認され、全国でも屈指の“長屋門密集地”であることが判明した。

しかし、その事実を知る人は多くない。
「この魅力をもっと外に届けたい」—そんな思いから、一冊の絵本プロジェクトが動き始めている。

日常に溶け込む「日本の原風景」

先述の通り、長屋門は武家の伝統的な建築様式の門だが、栗原市の長屋門は、歴史的建造物というより“生活の延長”にある。
農作業の物置として使われたり、扉を外して軽トラや大型の農業機械が通れるように改装されたりと、時代に合わせて少しずつ姿を変えてきた。

東京大学生産技術研究所 林憲吾准教授
東京大学生産技術研究所 林憲吾准教授

栗原市の長屋門について調査している、東京大学の林憲吾准教授は語る。

東京大学生産技術研究所 林憲吾准教授:
一番新しいものだと2000年に作られたものがある。暮らしの中に長屋門が常に身近な存在としてあり続けたから、今この数が残っているのではないか。

長屋門の価値を伝えたい 向き合う男性の情熱

くりはらツーリズムネットワーク 大場寿樹さん
くりはらツーリズムネットワーク 大場寿樹さん

そんな土地の価値にいち早く気づいたのが、栗原市の魅力を発信している「一般社団法人くりはらツーリズムネットワーク」の大場寿樹さん。

大場さんが長屋門の魅力に気づいたのは、市の「田園観光課」の職員だった当時のことだ。

くりはらツーリズムネットワーク 大場寿樹さん:
みんなで地域を見て回って、その時に、栗原市に長屋門って多いんじゃない?ということに気づいた人がいた。

その後、市職員でなくなってからも、見学ツアーを実施するなど試行錯誤を続け、約20年長屋門を見つめてきた。

カフェとして営業している長屋門も
カフェとして営業している長屋門も

栗原市の長屋門には、築200年以上の門を地元の宮大工が改修して、カフェとして営業するなど、新たな形で魅力を発信しているものもある。

その一方で、多くの貴重な長屋門が、広く知られないままになっている現状がある。
大場さんは、そんな長屋門をなんとか観光資源にできないかと試行錯誤を続けてきた。

くりはらツーリズムネットワーク 大場寿樹さん:
いいものなんだけど、どう見てもらう仕組みを作れるかが難しくて。ずっと手探りでした。

 小さな“門のキャラ”が、栗原市の未来をひらく?

編集者の藤本智士さん
編集者の藤本智士さん

その大場さんの熱量に出会い、絵本制作を引き受けたのが編集者の藤本智士さんだ。

藤本さんは20代の頃、地元関西でフリーペーパーの製作などを通して編集者としての活動をスタートした。その後、アイドルグループ・嵐が日本各地を旅する「ニッポンの嵐」など、地方をテーマにした雑誌や本を編集している。

長屋門をモチーフにしたキャラクター「もんモン」
長屋門をモチーフにしたキャラクター「もんモン」

栗原市の長屋門に「まだ知られていない大事な価値」を見たという藤本さんは、長屋門をモチーフにしたキャラクター「もんモン」を生み出した。
ころんとしたフォルムの“ちいさな門”には、一度見ると忘れられない愛嬌がある。

藤本智士さん:
長屋門を一生懸命広めようと頑張っている大場さんという人がいることを聞いて、長屋門の面白さと同時に、大場さんの情熱、長屋門に対する愛に感動した。

絵本『ひらめけ!もんモン』いよいよお披露目

絵本はすでに印刷・製本を待つ段階。
12月21日、仙台駅前AERで開かれる自主制作本イベントで、ついにお披露目される。

会場では読み聞かせのほか、「もんモン」グッズも販売予定。来場者の注目を集めそうだ。

大場さんは期待を込めて話す。

くりはらツーリズムネットワーク 大場寿樹さん:
もんモンのかわいらしさを通じて、長屋門に対して関心や意識が集まってくれるとうれしい

藤本さんは、絵本に対してまさに「門」としての役割を期待している。

藤本智士さん:
この絵本を日本全国どこかで手に取ってくれた人が、聖地である栗原に訪れてくれたらいいと思うし、宮城のことをどんどん知ってもらう入口、まさに門として、スタート地点になってくれたらいい。

長屋門の文化を未来に繋ぐ、新しい門がいま、開こうとしている。

仙台放送
仙台放送

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