鹿児島県錦江町では、人口減少と高齢化が進む中、生成AIを活用した役場の業務効率化に取り組むプロジェクトチーム「そいじゃが!」が発足した。人口5983人の約半分が65歳以上という小さな町が、最新技術を導入して行政サービスの質を維持しようとする挑戦を取材した。

人口減少時代に立ち向かう「そいじゃが!」

錦江町役場の職員数はこの20年で60人ほど減少しているが、産業振興課所属でAI検証班の池之上和隆さんは「業務量はなかなか減らない。AIを使って効率化して、もっと少ない人数ですませることもあるのではないか」と話す。

チーム名の「そいじゃが!」は「そうだ!」という意味の鹿児島弁。日常生活では「そう、それそれ~!」という意味でも使われる。池之上さんは「我々はAI初心者だがとりあえずやってみよう、やってみなければ何も分からないということで、『そいじゃが。そいじゃが』と言いながら色々やってみようとチーム名を作った」と説明する。

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民間企業とのコラボレーション

錦江町の生成AI導入を技術的側面から支援しているのは、岡山県の会社「エーゼログループ」だ。同社の大井健史さんは「AIは正解がある仕事に対して進めていくのは得意。AIが進められるところはAIに任せて、少し仕事に余白を作った上で、もっと人だから価値が発揮できる仕事に役場の皆さんが取り組むことができると、より地域としても活性化していくのでは」と期待する。

窓口対応を効率化する生成AI

2025年9月、さっそく生成AIを取り入れたのは町の介護福祉課。窓口に相談しに来た人の話をカウンターのマイクで録音し、自動で文字に起こして記録するシステムだ。

職員に、やりとりを再現してもらった。

「窓口の会話がテキストに」高齢化進む町が導入した生成AI
「窓口の会話がテキストに」高齢化進む町が導入した生成AI

「最近おいげん母ちゃんが家事とかもみちょって、なんか、のさんごあいもんで、やっで、ちった、なんかなあ、かせいをもろがならんか、と思って」

職員ふんする町民の相談内容が即座に画面に文字で表示されるのだが、大きな壁が“鹿児島弁”だ。相談の冒頭部分、画面では「最近多い原価ちゃんが家事とかもみちょっての山門だから」と意味不明な文章になっている。そこで…

「のさん」は鹿児島弁で、”困る”などの意味
「のさん」は鹿児島弁で、”困る”などの意味

「なるほど、お母様が家事をされているということで何か利用できるサービスがないかというご相談ですね」と応対した職員が言い直すと、 “共通語”で内容が表示された。

生成AIで窓口対応が変わった
生成AIで窓口対応が変わった

相談終了後はワンクリックで生成AIが会話を要約し、見やすく整理してくれる。

これまでは手書きでメモし清書したものをファイルにつづっていたが「聞き漏らしが少なくなるのと、内容もきれいにまとまり、時間短縮にもなっている」とAI検証班の本村貴浩さん(介護福祉課)は効果を実感していた。

業務引き継ぎも生成AIにお任せ

さらに、業務引き継ぎ用の生成AIも試作中だ。前任の職員がインタビュー形式で業務内容や課題、トラブル事例などを伝えると、生成AIがすべて学習して記録する。後任の職員がAIに質問すると、必要な情報をすらすら説明してくれるのだ。

引き継ぎを自動化する試み
引き継ぎを自動化する試み

「そもそもこの事業の内容について教えてください」という質問に対して、AIは「もちろん。この事業は森林保護のための再造林推進施策と言うんだ。目的は…」という具合だ。

AI検証班の坪内なな子さん(政策企画課)は「こんな質問をしてもいいのか?と気にせず、何度も同じ質問ができるので、安心にもつながると思う」と利点を挙げる。

未来を考えるワクワクする仕事へ

生成AI導入によって時間的余裕ができたら何をしたいか聞いてみた。池之上さんは「今やらないといけない仕事に追われているので、未来を考えるワクワクするような仕事にその時間を振り向けられたら」と語る。

錦江町の生成AI活用の取り組みは、人口減少時代における地方自治体の新たな可能性を示している。AIが業務の一部を担うことで、職員は住民とのコミュニケーションや地域の未来を考える時間を確保できるようになるかもしれない。小さな町の大きな挑戦が続く。

(動画で見る▶「人口減少の町がAIで変わる」鹿児島・錦江町が挑む“窓口×生成AI”で行政が生まれ変わる理由)

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鹿児島テレビ
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