漆塗り職人になるため、石川県輪島市の研修所で学んでいた今野風花さんは、能登半島地震の影響を受けながらも、11月21日に研修所を卒業し、新たな一歩を踏み出しました。
11月21日、石川県輪島市にある輪島漆芸技術研修所で卒業式が行われ、ここで2年から3年で学んだ16人が門出を迎えました。
卒業生のなかには岩手県大船渡市出身の女性がいます。今野風花さん(25)です。
今野さんは宮城県仙台市の大学で美術を専攻するうちに漆職人を志すようになり、2023年の春、伝統技法を学べるこの研修所に入りました。
能登半島での地震や豪雨により一時休校となったため、約8カ月遅れでの卒業となりました。
今野風花さん
「2年間怒涛のように時間が過ぎていった感じ。当たり前のことが普通にできない状況が続いた中で、卒業できたことはすごくうれしい」
2024年の元日に発生した能登半島地震。輪島市では震度7を観測しました。
当日、大船渡市に帰省していた今野さんは、そのまま地元にとどまることを余儀なくされました。
今野風花さん
「信じられないという感じ。それこそ頭が真っ白だったし、これからどうしようかなと、すごく悩んで迷って、不安な時期だった」
今野さんは地震後の9カ月間、知り合いの支援を受けながら岩手県内で制作活動を続けました。
今野風花さん(2024年9月・花巻市)
「漆が何年も長く残り続けることがすごく素敵。一番そこが魅力」
研修所が再開されたのは2024年10月、しかしその後、今度は今野さんのふるさとが大災害に見舞われます。
2025年2月、大船渡市で発生した大規模な山林火災。
自宅や家族は被害を免れましたが、帰省して傷ついたまちを目にした今野さんは心を痛めていました。
今野風花さん(2025年3月・大船渡市)
「無事だった人と、家が全部燃えちゃった人と、すごく差は大きい。すごく複雑な気持ちになる」
今野さんは小学5年生だった2011年に、東日本大震災も経験しました。津波がまちを襲う様子を目撃しています。
身の回りで3度の大災害が続いた今野さんは、集大成となる卒業制作では「自然災害」をテーマに選びました。
11月14日から研修所で開かれた卒業作品展には、卒業生16人の力作が並びました。
今野さんが手がけた作品には「平和な海」という名前が付けられています。
漆で模様を描く「蒔絵」と、貝殻の輝く部分で装飾を施す「螺鈿」、2つの技法を使って仕上げました。
今野風花さん
「水の流れ、海流をイメージして模様を描いてみた。真ん中にウミガメがいる。その周りに貝を貼って、ウミガメがいるような明るい地方の海のイメージで」
明るいイメージに仕上げたというこの作品には、自然に対するマイナスのイメージを拭い去りたいとの思いが込められています。
今野風花さん
「自分の身の回りで自然災害が立て続けに起きていたのもあって、自然に対する暗いイメージ、負の感情が自分の中でたまりにたまっていたので、自然に対する明るいイメージを思い浮かべられるようなものにできたらと」
自然の脅威を何度も思い知らされながら、自然の美しさを表現したかったという今野さん。
卒業後は岩手で漆に関わる仕事に就く予定です。
今野風花さん
「たくさんのものをもらった。技術的なこともすごく教わったし、また一つ成長させてくれた場所。前を向いて漆を続けていけたらいいと思う」
地元の素材を使った作品づくりを目指す今野さん。
郷土愛と漆への情熱を胸に、新たな一歩を踏み出そうとしています。