2008年、38歳で事業を承継し、崩壊寸前、年商7億円の状態から年商100億円・16社グループへ導く奇跡的なV字回復を果たしたリーダーがいる。彼が苦悩の末に行き着いたのは、「効率ばかりを追い求める経営こそ、実はもっとも非効率」という真逆の確信だった。発売直後から都内大手書店、丸善・丸の内本店でビジネス(経営)書ランキング1位を獲得(2025年11月13日~11月19日集計)した書籍『あえて、非効率』の著者・人未知理。が語る、AI時代だからこそ問われる「人の価値」、そして20年後、30年後も市場で生き残るために経営者が持つべき「非効率な人材育成」という本質とは――。
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会社経営は効率だけが善じゃない
――本書のタイトル『あえて、非効率』は、昨今の効率偏重というビジネスや会社経営への警鐘やアンチテーゼのように受け取りました。
人未知理。(以下、人未) そうですね。今の世の中、何ごとにも「効率こそが正義」みたいな考え方がまかり通っているように感じます。「コスパ」や「タイパ」という言葉がもてはやされているのもその現れでしょう。
ビジネスも同じ。多くの経営者の頭には未だに「効率的なことはいいこと、非効率なことは悪いこと」という発想がこびりついています。重視するのは「いかにコストを抑えるか」「いかに時間や労力を省くか」ばかり。お金がかかり、すぐに成果の出ないことは「すべてムダ」だと判断されてしまうんです。
でも私は、そういう考え方にずっと大きな違和感を覚えていました。本当に効率は善で、非効率は悪なのか。いやいや、それはちょっと違うよ。 経営ってそんなに単純なものじゃないでしょ、って。
なぜかというと、私には「効率ばかりを追い求める経営こそ、実はもっとも非効率」「非効率にこそ経営の本質がある」という、まったく逆の確信があったからです。
人を育てるという「非効率」こそ経営の本質
――「非効率が経営の本質」という考え方の真意はどこにあるのでしょうか?
人未 ひと言でいえば「経営の本質は非効率な人材育成にある」ということです。20年先、30年先も市場で生き残れるか、それとも途中で淘汰されてしまうか。会社の成長や存続の命運を分けるものは、やっぱり「人」でしかないんですね。
売上を増やす、財務を改善する、技術開発する、それももちろん大事。 でも、これら全てを支えているのは会社で働く社員たちですから。
優れた人材がいるから優れた技術が生まれ、そこから優れた製品が生まれる。そう考えれば 、人こそが会社にとっての真の強みなんです。
しかし、人材教育に本気で取り組まない経営者が多いのが現状です。「人への投資は重要」と頭でわかっていても、行動が伴わないんですね。理由はシンプル。人はすぐに育たないからです。
人材教育というのは、リソースを投じてもすぐには成果が表れない、まさに「非効率」な取り組みです。だから、皆やりたがらないんですよ。
そのくせ「人材不足だ」「優秀な人材がいない」「社員が定着しない」と嘆いている。それは当たり前ですよ。自前で育てていないのだから。「人を育てないで、会社の成長ばっかり求めるなよ」って話なんですよ。
――教育にかけるお金や時間は、会社の未来への投資ということですね。
人未 そうです。確かに人は一朝一夕では育ちません。しかし、本気でお金や手間をかければ、会社の競争力を底上げし、成長を支える戦力となる優秀な人材が育ってきます。長い目で見れば非効率な教育こそ、最大の成果を生むもっとも「効率的」な取り組みなんです。そのことに気づかず、本気で「人」に投資しない会社は、いずれ淘汰されていく運命を辿ることになるでしょうね。
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人の価値は「アタマ」から「ココロ」に
――今や、AIの台頭で「人間がAIに仕事を奪われる」などとも言われています。今後、会社における「人の価値」はどう変わっていくのでしょうか。
人未 圧倒的に優秀なAIが登場したことで、私たち人間の「価値の在り処」も大きく変わるでしょう。まず言えるのは、今後、学歴や学力、知識量などは、人間の価値を表す”ものさし”ではなくなるということです。
だってAIがあるんだから。記憶や計算、データの分析や処理などの領域では、人間は逆立ちしたってAIにかないません。人間の頭のよさなんてAIの前では皆横一線。もはや学力など武器にも価値にもならないんですよ。
じゃあ、これからは何で人の価値を測るのか。それは礼儀や気遣い、信頼や共感といった、AIにはない「人間らしさ」や「人間性」なんですね。人間の価値は「アタマ」から「ココロ」に変わっていくんです。
会社なら、AIの導入が進めば進むほど「社員の人間性」が問われることになります。だからこそ経営者は、人を育てる教育投資に本気で取り組まなければいけないんですよ。
これからは会社組織も「ココロ」で評価される
――著書のなかでは「CMQ」という概念についても書かれていますね。
人未 これからは個人だけでなく、人の集団である会社の価値も「心」で測られるようになります。ただ、心、とくに「集団としての心」の評価は定量化しにくいものです。これまでも、個々のEQ(感情知能)はあっても、集団を対象にした指標はありませんでした。そこで私が考案したのがCMQです。
CMQとは「集団的道徳指数(Collective Moral Quotient)」のこと。道徳心は「人間らしい心」の本質です。CMQは個人ではなく「組織としての道徳心」を表す指標になります。これは今までなかった新しい概念で、すでに商標登録も済ませてあるんですよ。
その評価方法などは別の機会に広く発信していきますが、つまりは「人間らしい心を持った組織かどうか」が、その会社の社会的評価に直結するということです。
たとえば「困っている人には手を差し伸べる」「『ありがとう』が自然に飛び交っている」「他人の挑戦を称え、リスペクトする」といった職場風土のある会社は「CMQが高い」という評価になるわけです。
――逆に言えば、道徳心に欠けたCMQの低い会社は生き残れないと。
人未 おっしゃるとおりです。実は、少し前にこんなことがありました。仕事で訪ねたある会社でエレベーターに乗ろうとしたときのことです。
ホールで派遣の清掃会社のおばさんといっしょになったのですが、彼女は私と同じエレベーターに乗ろうとしません。「どうぞ」と言っても乗ってこない。理由を聞いたら「社員さんから『清掃会社のヤツがエレベーターを使っていた』とクレームが入るから」って。
「なんだそりゃ」と。ここはこんな情けない、恥ずかしいことがまかり通る会社なのかと愕然としたんです。こんなCMQの低い会社は、たとえ今どれだけ好調でも、先は知れているなと思いましたね。
感謝を忘れない、人様に迷惑をかけない、おかげさま、恥を知る、和を尊ぶ、といった目に見えない「暗黙の道徳心」こそ、AIが持っていない「人間らしさ」そのものです。
非効率を恐れずにそうした資質を持った人材を育て、CMQの高い集団をつくることが、これからの組織の勝敗を決めることになります。
人も会社も、人間らしさがなければ生き残れない。世の中はそんな時代に足を踏み込んでいます。会社をけん引する立場にある経営者こそ、その認識を強く持つべきだと思います。
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