「実際に見てほしい」意識不明の康至くんと一緒に講義へ
両親と一緒に松山東雲短を訪れた田村康至(たむら・こうし)くん3歳。
呼吸器を取り付け、横になったままです。
康至くんは2年半前の生後8カ月の時、通っていた保育園で事故にあい、今も意識不明の状態が続いています。
康至君の両親が、保育士を目指す学生を前に特別講義を行うことになり、家族3人で大学にやってきました。
母・田村早希さん
「実際をみてもらうと、やっぱりより身近に感じてもらえると思って」
保育園の給食でリンゴを食べた直後に心肺停止に
2003年5月16日、慣らし保育中だった、新居浜市の認可保育所で当時生後8ヵ月の康至君は、給食で出されたリンゴを食べた直後に呼吸困難となり、一時、心肺停止の状態になりました。
康至君は低酸素脳症となり、今も意識は戻っていません。
講義を企画したのは検証委員会委員長の岡田准教授
特別講義を企画した松山東雲短大保育科の岡田准教授は、新居浜市が設置した事故の検証委員会で委員長を務めました。なぜ今回、こうした講義を企画したのか尋ねると。
松山東雲短期大学保育科・岡田恵准教授:
「やはり保護者自身の言葉を聞いてもらって、自分たちが現場に出た時に、何を大事にしなければいけないのかっていうのを気づいて欲しくて」
講義の会場には、保育士を目指す学生や県内の保育関係者など約150人が集まりました。
「保育園に預けることは命を託すこと」
父・敦さんと母・早希さんが保育士を目指す学生らを前に語りました。
母・早希さん:
「誰かを責めるためではなく、同じような事故を2度と起こさないためにお伝えしたいと思ってきょうここにきました。保育園に預けることは命を託すことです。みなさんにお伝えしたいのは事故は紙の上の話ではない、目の前で起きます。ほんの少しの気づきや疑問、手間がこれが子供の命を守ると思ってます。」
意識不明の康至くんも呼吸器をつけたまま講義に参加
講義の場には意識がなく横になったままの康至くんも。学生たちに実際に康至君の姿を見てもらい、保育の大切さを感じてもらいたい思いからです。
早希さんは、これから保育の道を志す学生たちには「学んだ基本を大切にしながら、子供自身によりそってほしい」こと、また保育の現場では「チームで子供を守る環境づくり」への願いを訴えます。
母・早希さん:
「気づいたことを共有できる園の雰囲気や体制が子供たちを守ることにつながっていくと思います。目上の人に意見するのは本当に大変だと思います。だけど、それが一体誰のためなのかということをしっかり考え子供のために行動できる人になってほしいです」
将来の保育士からも質問が
講義では保育士を目指す学生から質問もだされました。
保育科学生:
「私たちはこれから保育現場に出て保育者として働き出します。そこで子供と保育者、ご家族と保育者の関わり方、つながりで大切にしてほしいことや忘れてほしくないこと、今伝えたいことなどあれば教えてほしいです」
母・早希さん:
「子供を真ん中に考えるということを、自分が直接関わってるっていう意識は忘れずに持ってほしいかなというのはあります」
父・敦さん:
「全部が全部伝わらなくても、こういう授業があったなとか、講義があったなっていう感じで、心のどこかに残ってたら、それが多分どこかで生かされるっていうのがあるのかなと思うので」
「見ていて涙があふれた」絶対に起こしてはいけない事故
講義を終えた学生たちは。
学生:
「保護者の口から聞かないとわからないこともたくさんあるんだなと思って今回の講義を受けて、一つひとつの言葉の重みを感じたのと来年からみんな社会人になって保育に関わるので改めて頑張っていきたいと思いました」
保育関係者(調理担当):
「私も同じくらいの月齢の子供がいるので、見ていて痛ましいなと思って涙があふれてしまったんですけどもし自分の子供がと思ったら胸が痛んでしまって、絶対におこしてはいけない事故だと思うんですよ。絶対に大丈夫だと思って早希さん息子さんを預けられたと思うので、やっぱりそういう事故がおこらないように、次の保育をされるような方にこういう機会を与えて、私も参加させてもらったのがすごくありがたいなと思いました」
当事者家族が伝えた「命の授業」
講義終了後、康至くんのそばに集まって、熱心に両親に質問をする学生たちの姿がありました。
学生:
「2時間に1回痰の吸引はずっと起きてるんですか?」
これから愛媛の保育を担う学生へ、当事者家族が伝えた90分の「命の授業」。
そこに託されたエールを、学生たちはしっかり受け取っていました。
