茶どころ静岡を下支えしてきたとも言える「茶箱」が新たな使い方で注目を浴びている。
伝統技術を引き継ぎ茶箱作りと向き合う思いに迫る。
茶箱の製造業者は減少
静岡市駿河区丸子にある「駿府の工房 匠宿」。
ここでは民芸品や工芸品を販売するギャラリーで商品を展示するための什器として茶箱が使われている。
「素敵。木目が出てる表面が面白い」「こういう風に使っていかないと作り方も廃れてしまうと思うので、こういう形で残っていくのは良い」と来店客も茶箱を見て感想を漏らす。
香り豊かな茶葉を新鮮な状態で保存・運搬するために、江戸時代から使われている茶箱。
ただ、段ボールやビニールなど木材に代わる素材の台頭や国内における茶業の衰退もあり、最盛期には数十軒あった製造業者も今では数件にまで減っているそうだ。
伝統を受け継ぐ
静岡県磐田市で木工製品の製造や修理を手がける鈴貴木工。
落合貴信 代表と妻の加依さんは、掛川市で明治時代から茶箱を製造してきた鈴木製函所で学びその技術を引き継いだ。
落合代表は「もともと木工をやっていて、うちが使っていた機械屋が先代の鈴木製函所とつながりがあり、仕事を辞めるという話を聞いた。その時は茶箱についてよく分かっていなかったが、見に行って『こういうものなんだ』とわかり、これをなくすのはよくないと思い二つ返事でやることになった」と振り返る。
「鈴貴木工」の屋号には鈴木製函所への感謝と敬意が込められている。
茶箱の魅力を再発見
茶箱を取り巻く環境が厳しさを増す中、敢えて技術を受け継ぎ、後世に残そうと取り組むのには理由がある。
「茶箱の保存能力や保管能力は、プラスチックなどの既製品にはない。特に湿気に弱いものの保存に茶箱は本当に適している」と落合代表はその特徴と魅力を説明する。
このため、茶箱の新たな可能性を広げようと現在進めているのが茶葉の保管だけではない使い方の提案だ。
杉の木を使って作られた茶箱は湿気に強く風味や香りを長く保つことができるため米やコーヒー、パスタや穀物、さらには衣類の保管に適していると言う。
また、最近では家具インテリアとしても注目を浴びている茶箱。
用途に合わせた様々な大きさの茶箱を展開、一見イスのようなモダンな茶箱も製作し、家具の見本市に出品するなどしてPRに努めている。
落合代表は「丁寧にキレイにというのが第一。天竜杉のキレイな木目をみてもらいたいと思いキレイに出せるようにやっている」と製品作りへの思いを話す。
茶箱の代表ブランドへ
こうした取り組みが実を結び茶箱の販売数は着実に伸びており、個人からの問い合わせや注文も増えているほか、磐田市のふるさと納税の返礼品にも選ばれている。

「静岡県のみならず、全国に茶箱を広めていって、茶箱といえば鈴貴木工だと言われるようになればいい」と意気込みを語る落合代表。
茶どころ静岡を下支えしてきた茶箱。
その確かな技術は時が移ろいゆく中でも色あせることなく、役割を変えながら私たちの暮らしに寄り添っているようだ。
(テレビ静岡)
