中小企業の事業承継が全国的な課題となる中、福井市には親子で事業を引き継ぐ鉄板加工会社がある。2代目として会社を経営してきた父親と、3代目として県外からUターンした長男。

経営に対する思いの違いを乗り越え、会社を守ろうと奮闘する家族の姿を取材した。

創業61年の鉄板加工会社 で世代交代

福井市若江町の鉄工団地に位置する北鋼シャーリング。

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創業60年を超える同社では、シャーリングマシンと呼ばれる機械で鉄板を切断し、厚さや用途に合わせて建築資材や機械の部品の材料を加工している。

3代目の増田悠二さんは、大学卒業後に県外の出版社に勤務後、10年前に家業を継ぐために福井に戻ってきた。

3代目の増田悠二さん
3代目の増田悠二さん

帰郷後は鉄板加工の一通りの作業を経験した後、経営に携わるようになった。

職人気質の2代目の姿勢

長年会社を支えてきたのは、専務の増田浩三さん。悠二さんのお父さんだ。

2代目で悠二さんの父、浩三さん
2代目で悠二さんの父、浩三さん

会社の強みについて浩三さんは「我々は、福井ではほぼ単独の会社。鉄板を曲げ、穴開けまで全て工場で使う前の下地までできるというのが自慢」と語る。

息子が帰ってきたことには嬉しさをにじませつつも「子供の頃から1人か2人はついてくれると思っていた」と淡々と話す。

新規事業に乗り出す悠二さん
新規事業に乗り出す悠二さん

しかし、悠二さんの新しい試みには「反対していた」と率直な思いも明かした。「腰を据えて全て社内の隅々まで覚えてからなら許した」という。先輩経営者として、父親として、本業を守り続ける難しさを伝えたいという思いからだった。

BtoBからBtoCへの挑戦

悠二さんが思い描く会社の将来像は、長年続けてきた企業間取引(BtoB)のビジネスモデルから一歩踏み出すことだった。

「我々の製品はさらに加工されて世に出ていくのであって、最終製品ではない。最終製品を作って消費者に直接、販売しすることで、技術力や企画力を発信したい」と悠二さん。

社員に好評だったBBQ用プレート
社員に好評だったBBQ用プレート

その思いを形にし、2020年からはバーベキュー用の鉄板をオーダーメイドで作るサービスを始めた。「社員の懇親会で分厚い鉄板の端っこを曲げて焼いてみたら、お肉がすごく美味しくて。これは需要があるんじゃないかと思った」のがきっかけだった。

個人事業として悠二さんが展開
個人事業として悠二さんが展開

現在、この鉄板の販売は悠二さんが個人事業として展開している。父の浩三さんは、勤務中の活動を許していない。「人口も増えないし、住宅も余ってる。これ以上キャパや人を増やすのはNOだね」と厳しい。

一方の悠二さんは「早く会社のみんなとこのプロダクトを一つの事業として発信していきたい」と意気込む。

左が弟で工場長の拓史さん
左が弟で工場長の拓史さん

悠二さんが新事業を推し進めるにあたっては、工場長を務める弟の拓史さんの支えがある。

「帰ってくるのは聞いてはいた。長男なので当然だと思っていた」と拓史さん。「帰ってくるまでに僕が工場をまとめて、僕が信頼されていれば、自ずと兄もうまく溶け込めるかなと思っていた」と話す。

親族間で承継は3割に留まる

福井県事業承継引き継ぎセンターによると、県内企業では親族間での承継は3割にとどまり、親族以外や第三者へのM&Aによる承継が7割を占めているという。

福井県内の事業承継
福井県内の事業承継

福井県事業承継引き継ぎセンターによると、県内企業では親族間での承継は3割にとどまり、親族以外や第三者へのM&Aによる承継が7割を占めているという。

親族間で承継が進まない理由
親族間で承継が進まない理由

親族間の承継が進まない理由として、センターは主に2つの理由を挙げる。1つは「子供に同じ苦労をさせたくない」という親の思い。もう1つは「いずれ子供が継いでくれると思い込んで問題を先送りにしている」ということだ。

北鋼シャーリング
北鋼シャーリング

第三者への承継が多い中で、北鋼シャーリングのように親子でつなぐあり方も一つの形だ。本業を貫き経営者として会社を支える父、その背中を見つめ挑戦を続ける長男。事業承継には様々な形があり、それぞれの会社に合った方法を模索することが重要といえそうだ。

福井テレビ
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