かつて祖父母が営んでいた長野県大町市の青果店をこの春、孫が「商店」として20年ぶりに復活させました。購入した酒をその場で飲む「角打ち」も始め、「にぎわいの拠点にしたい」と奮闘しています。
野菜に果物、地酒に、駄菓子も。所狭しと商品が並びます。大町市の本通り商店街にある「仁科商店」です。
地元客:
「おもしろい感じの品ぞろえだし、他にないような、だけど地元のものだったりを取り扱ってくれているのでいいと思います」
営むのは、地元出身の栗林宏充さん(30)。特別な思いを胸にこの春、店をオープンしました。
仁科商店・栗林宏充さん:
「今まで心の中にあった、この店舗に寄せる、この場所に寄せる思いを見つめ直して開業した」
この場所ではかつて祖父母が「青果店」を営んでいて、栗林さんが20年ぶりに「復活」させたのです。
1940年代に開業した「仁科青果」。主に栗林さんの祖父母が切り盛りし60年以上、”街の八百屋”として愛されてきました。
栗林さん:
「すごい品数の多さだったんだなと当時のこと振り返ると、街自体のにぎわいとか、人通りも肌で感じ取れるようなお店だった」
しかし、年齢のこともあり20年前に閉店。以降、空き店舗のままになっていました。
当初、栗林さんも店を継ぐ予定はなく大学卒業後は、松本市で中学校教員として勤務。
2023年、佐久市の道の駅の指定管理を受ける会社に転職しました。店長として仕入れや販売などに携わりました。
栗林さん:
「観光のお客さんが立ち寄る場所ではあるけど、地域の人が買い物に来るとか、地域の農家さんとのコミュニケーションの中で『最近、体調どう』とか、そういう話も自然と生まれてくるような地域コミュニティーの中の道の駅って印象」
指定管理の委託期間が終わったことを機に2024年、帰郷。戻ってきた地元で見えたのは―。
栗林さん:
「特にこの商店街も閉まっているお店が多く、人通りも決して多いとは言えない。街自体もどんどんにぎわいが減っていく、買い物をできる場所も減っていくというのを肌で感じていた」
隣の白馬にはインバウンド客など多くの観光客が訪れる中、大町にどう呼び込むか。市の課題となっています。
そんな中、栗林さんが気付いたのが他の観光地にも負けない「食の魅力」。一度、地元を離れたことで「再発見」しました。
栗林さん:
「お米とか野菜がおいしいとか、今まで当たり前だと思ってたことに魅力がしっかり詰まっていると発見した」
ずっと心に残っていたのが祖父母が営み多くの客が訪れていた「青果店」です。
この場所で魅力を発信しよう。20年間、空き店舗のままだった店をリノベーションし2025年5月に「商店」として復活させました。
客:
「お土産を何か買いたい」
店には500を超える商品を並べています。「道の駅」の経験も生かし、地元産、そして生産者の顔の見える商品を多くしています。
信州のお土産の定番、大町の土産菓子業者の「雷鳥の里」。
地元中学生が育てたトウガラシで作る調味料「マチスコ」。
栗林さん:
「素材にこだわるとか、作り手の思いが伝わるとか、そういったところはすごく力を入れていて、地元の人も観光で初めて訪れる人も、この場所で大町に思いをはせてもらって、自然と交わるような場所にしたい」
10月31日午前9時、開店前の「仕入れ」に同行しました。
松川村で4代続く「ヤマモ農園」。
ヤマモ農園4代目・平林伸晃さん:
「シナノスイートの方が甘いリンゴ、シナノゴールドが硬めで酸味があって歯ごたえがいいリンゴになっています」
実際に商品を見て、生産者と話す。栗林さんのこだわりです。
栗林さん:
「実際にものを見ながら、どうお客さんに伝えていくかを考えていきたい」
ヤマモ農園4代目・平林伸晃さん:
「大町はお店が少なくなってきているイメージだから、そういう中で頑張っているとなると応援したい」
シナノゴールドとシナノスイート2ケースを仕入れました。
戻ってきたら開店。早速、買い物客が訪れました。地元でゲストハウスを営む常連客です。
常連客:
「(何買った?)お米です。少しでも地産地消をやっていきたくて」
「仁科商店」が開店し、商店街の雰囲気も変わってきたと話します。
地元客:
「シャッターが閉まっていると寂しい感じがするので、お店が開いていて、中に電気がついていて、人がいるというのがすごく温かくていい」
続いて訪れたのは滋賀県からの観光客。
滋賀県から:
「これが評判なんです。タバスコのなんだっけ、なにスコって言ってたっけ?マチスコ、これがすごくおいしいということで頼まれて、4つ買いました」
「マチスコ」や果物などカゴいっぱいに。
滋賀県から:
「(白馬の)とある喫茶店に立ち寄ったところ、この仁科商店がとてもいいですよと、そんなところ知らんかったって」
「仁科商店」には商品の販売だけではない大きな特徴があります。
店内で購入したお酒をその場で飲むことができる「角打ち」です。
栗林さん:
「クラシックドライジンのソーダです」
観光客:
「めっちゃ山椒です、おいしい」
大町をはじめ県内各地の酒など70種類以上をそろえています。
広島から訪れた女性は野沢温泉村のクラフトジンが気に入りました。
広島から:
「ちょっとこっちも飲んでみようかな」
栗林さん:
「今度はシソジンのソーダです」
野沢温泉村の「シソジン」も。
広島から:
「めっちゃシソです、後からくる」
広島から:
「(どっちを買った?)両方買いました」
午後6時すぎー。
栗林さん:
「飲み口、軽い方がいいですか?しっかりあったほうがいいですか?」
地元客:
「そんなに甘くない方がいいかな」
地元の男性は「帰りに一杯」と立ち寄りました。
地元客:
「飲みやすいです、おいしい」
駄菓子をつまみに。
地元客:
「最高だね。(角打ちできる店は)めったにないですからね、気楽に。しかも(栗林さんは)いい人なんで、たぶん」
地元客:
「結構シャッターが閉まっている所が多い中で、こうやって新しいお店を開いてくれると大町が楽しくなっていいと思います」
祖父母の店を復活させた栗林さん。地元「大町」を発信しながら地元住民も観光客も楽しめる「交流の拠点」になればと奮闘しています。
仁科商店・栗林宏充さん:
「大町にはこんなものがあるんだって、発見をしてもらえたらうれしい。周りの地域、周りのお店とか事業者と一緒に大町を盛り上げていける構想ができたら」