皆さんは、ヒトT細胞白血病ウイルス1型=HTLV−1というウイルスをご存知でしょうか?

このウイルスは、人間の免疫システムを担うリンパ球に感染し、白血病や歩行困難や排尿障害を伴う神経の難病、それに「ぶどう膜炎」という目の病気などを引き起こすことがあります。

Qウイルスにかかったら、すぐ病気になる?

このウイルスは潜伏期間がおよそ50年と長く、感染した人全員が病気を発症するものではありません。

Qウイルスに感染している人はどのくらいいる?

世界には、このウイルスに感染している人が、推定で500万人から1000万人いるとされていて、日本では、およそ65万人、このうち半分が九州に集中しています。

感染した人のほとんどは無症状ですが、重大な病気を引き起こす恐れのあるHTLV−1。
医師はウイルスの特徴を知り、検査を受けることの重要性を訴えます。
研究の最前線を取材しました。

(雪丸千彩子記者)
「宮崎大学医学部に来ています。こちらの部屋では、HTLV−1の検査方法など研究の進捗について報告が行われています」

宮崎大学医学部附属病院膠原病内科の梅北邦彦診療科長です。
リウマチなどの膠原病やHTLV−1が原因で発症する脊髄症など免疫の異常で起こる病気を専門としています。

梅北医師の研究室では、患者から提供された血液を使って、白血病になるリスクが高い状況にあるのか、分析などを行っています。

(宮崎大学医学部附属病院 梅北邦彦医師)
「この患者さんはATL(成人T細胞白血病)に近い細胞がどんどん増えてきているのが分かる。この方はお元気なんですけど、体の中ではこういう変化が起こっていて…」

HTLV−1が引き起こす病気の治療法はまだ確立されていません。

(宮崎大学医学部附属病院 梅北邦彦医師)
「白血病の場合は、ATL(成人T細胞白血病)と言いますけど、現在の最新の治療でも(発症後)2年以内に8割の方が亡くなる」
「(HTLV−1の)ワクチンも開発が試みられていますけど、それもまだ有効なワクチンの開発まで至っていない」

HTLV−1の感染経路は、母乳による母子感染、輸血による感染、性交渉による感染の主に3つです。

このうち、母子感染は、2010年から妊婦健診で検査が行われるようになり、母乳を与えない、もしくは授乳期間を短くすることで感染リスクを下げられるようになりました。
また、輸血による感染は、献血の際に検査が行われるため、日本ではほぼありません。

こうした中、危惧されているのが、性交渉による感染の広がりです。

(宮崎大学医学部附属病院 梅北邦彦医師)
「妊婦さんは検査を受けて、自身が感染しているかどうか知るチャンスがあります。最も検査を受けるチャンスがないのは男性です。健診の項目にも入っていませんので」
「(感染を)まったく知らずにパートナーさん移してしまう可能性が十分にあって」

世界では、2019年にWHO=世界保健機関がHTLV−1の撲滅計画を提唱しました。
研究実績が豊富な宮崎大学は、感染者が多い南米・ペルーで現地の大学と連携し、今後、検査体制の構築や医療スタッフの育成を図ります。

(宮崎大学医学部附属病院 梅北邦彦医師)
「これだけ感染経路が明らかなウイルスはなかなか逆にいない。要するに感染対策がしやすい」
「新しい感染者を作らないという観点と、ご自身の健康を守るという観点で検査を受けていただきたいなと思います」

Q九州に感染者が多いのはなぜ?

大昔の人類の移動が関係していると考えられている。
日本では、縄文人もHTLV−1に感染していたと推察されていて、九州に感染者が集中するのは、縄文人にルーツを持つ人が多いからと考えられている。

梅北医師は「現在は九州に限らず、全国で感染者が多い地域が散見される。国内では年間少なくとも2000人から4000人の新規感染者が推計される」と話していました。

実は、きょう11月10日はこのウイルスへの理解と啓発を目的に制定された「世界HTLVデー」です。

HTLV−1の検査は、保健所で無料で受けられます。
HTLV−1は感染対策ができるウイルスであることをまずは知ってほしいと思います。

テレビ宮崎
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