鹿児島県さつま町にある1軒のスーパーが、2025年10月末、閉店した。個性的な品揃えで長年親しまれてきたが人手不足や設備費の高騰には勝てず、34年の歴史に幕を下ろした。地域にこだわりの商品を届け続けたこの店の最後の1日に密着し、社長の思いに迫った。
「変態な店」と呼ばれた個性派スーパー
スーパーの名は「フレッシュ☆くまだ」。「フレくま」の愛称で親しまれてきた。この店でしか販売されない希少な天然塩など珍しい商品が並び、独自性を貫くこだわりの店として愛され、鹿児島テレビでも2024年にローカルニュースで取り上げた。
当時のインタビューで熊田卓三社長はこだわりについて「僕らは個人スーパーだから自分で好きなものを持ってきて好きなように切って売っているだけ。だから“変態な店”と言われるんです」と笑顔で語っていた。
その珍しさから週末には町外からも客が訪れていた。しかし10月初め、熊田社長はSNSに「10月31日をもちまして閉店いたします」と投稿。多くの店舗が苦しむ人手不足に加え、老朽化した冷蔵庫などを更新する費用の高騰が理由だった。
閉店を知らせる告知には多くの惜しむ声が寄せられた。「お客さんが思っている以上の衝撃で、私の方がビックリするぐらい。こんな小さい個人店に対して、そこまで思ってくれるお客様がいたんだな」と熊田社長は驚きを隠せない様子だった。
鮮魚へのこだわりは地域を魅了
店の歴史は熊田社長の祖父母が創業した雑貨店を含めると90年以上。スーパーとしての営業は34年に及ぶ。
お店の一番の売りは鮮魚だった。お店のあるさつま町は周囲を山々に囲まれた盆地。山間部にもおいしい魚を届けたいという思いから、社長自ら県北部の阿久根市や鹿児島市の市場に毎朝足を運び、仕入れを行っていた。「自分がおいしそうだなと思ったのをお客さんが食べて、おいしいと思ってくれる。それが一番」と熊田社長。
店頭に並べる魚は全て売り切るという揺るぎない信念のもと、新鮮さへのこだわりを貫いた。市場の仲買人、吉野浩二さんは「こだわりがあり、しょっちゅう困らされた。妥協しない人なんで」と振り返りながらも「とことん追求し面白いことを常に考える人だから、私たちも相手していて楽しいし、本当はもっと続けてほしかった」と、閉店を惜しんだ。
感謝と惜別の最終日
営業最終日。社長の妻・熊田成美さんは「きょう一日、最後みなさんと気合いを入れて頑張っていきたい」と意気込んだ。朝礼に社長の姿はなかった。取引先へのあいさつ回りに出かけたからだ。父で会長の軍吉さんと成美さんが最後の朝礼を行い、シャッターが開けられた。
閉店前に売り尽くしセールをしていた店内の陳列棚はほぼ空っぽだったが、多くの買い物客が訪れた。店内には感謝を伝えるために贈られた花やメッセージが飾られていた。
帰店した熊田社長は「花が贈られてきて何もないから、あすから商品が入ってきて新装開店かと思うよね」と笑顔を見せた。最後の日も社長は買い物客と笑顔で接し続けた。
閉店時間が近づいた夕方、店の外には熊田さんを慕う同業者や地域住民など約100人が集まっていた。社長には長年の営業をねぎらう花束が手渡された。
最後の挨拶、それまで笑顔を見せていた社長も言葉に詰まりながらも伝えたいことがあった。
「色んな地域に、小さなお店がいっぱいある。そのお店、なくなってほしくないお店、あると思います。それを守っていくのはその地域の皆さんだと思います。皆さんでしっかり守ってあげてください。ありがとうございました」
惜しまれつつ長年の営業に幕を閉じた地域の名物スーパー「フレッシュ☆くまだ」。「34年間ありがとうございました」という言葉とともに、個性あふれる店と店主の人柄は、多くの人の思い出に残り続ける。
