岩手県北部、青森県との県境に位置する軽米町。冷涼な気候を活かし、古くからソバやヒエ、アワといった雑穀の栽培が盛んな地域である。
町内には一面に広がるソバ畑が広がり、訪れる人々の目を楽しませている。

この軽米町には「宇漢米(うかめ)」という、古代の響きを残す地名が存在する。
現在も「かるまい文化交流センター・宇漢米館」や、地域の創作太鼓団体、銘菓の名称などにその名が使われており、町民に親しまれている。

この「宇漢米」という地名の由来について、長年にわたり岩手県内の地名を調査してきた宍戸敦さんは、次のように語る。

宍戸敦さん
「軽米という地名が史実としてわかっているのは、江戸時代の前(安土桃山時代)あたりからである。それ以前の軽米の由来は、古代の蝦夷の族長『宇漢米公(うかめのきみ)』に由来するという考え方もある」※表記・呼称諸説あり

「宇漢米公」は、奈良時代から平安時代にかけて、県北地域にいたとされる蝦夷の族長。
その名は、「宇漢米という地域の長」を意味していると考えられ、かつてこの地域に「宇漢米」という地名があったことを示している。

宍戸敦さん
「県北一帯が『宇漢米』という地方だったと考えられる。読み方については『ウカンメ』『ウカマイ』『ウカベ』など諸説あるが、この宇漢米というのが軽米であろうという説」

軽米町教育委員会の山下海斗さんは、宇漢米公について次のように説明する。

軽米町教育委員会 山下海斗さん
「宇漢米公は、軽米を含む岩手県北部から青森県南部にかけての地域、いわゆる『糠部(ぬかのぶ/ぬかべ)』を治めていた豪族とされる。『糠部』がベースになったのか『宇漢米』がベースになったのか定かではないが、そういった伝承がある」

このように、「宇漢米」という地名は、古代の蝦夷文化と深く結びついており、地域の歴史を今に伝えている。

軽米町では、「宇漢米」の名を冠した食文化も根付いている。町内で90年以上続く老舗「軽米食堂」では、「うかめ定食」が30年近く提供されている。

店主の堀米成嘉氏によると、定食のご飯には軽米町特産の雑穀であるアマランサスとモチキビが使われており、粒のはじけるような食感が特徴である。

さらに、地元の食材をふんだんに使ったカモ汁も絶品だ。だしのしみ込んだ凍り豆腐が、カモの旨味とともに口の中に広がる。
地域で大切に受け継がれてきた食文化を堪能できる。

軽米町では、かつて「やませ」の影響で稲作が難しく、ソバやヒエなどの雑穀を多く栽培されてきた歴史がある。堀米さんも「自分が子どもの頃から雑穀をよく食べていた」と語り、雑穀に対する思い出を振り返る。

軽米食堂 堀米成嘉さん
「雑穀にあまりいい印象を持っていないお年寄りも多い。貧しかったみたいな感じで。私は雑穀もいい思い出。おいしかった」

「宇漢米」という地名と、それにまつわる伝承や食文化は、軽米町の人々の暮らしに根付いている。

岩手めんこいテレビ
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