岡山県庁の庁舎を設計した建築家・前川國男が生まれて2025年で120年です。建築ファンの間では評価が高いものの、一般にはあまり知られていない県庁舎の魅力をもっと知ってもらおうという取り組みが進んでいます。

◆岡山県庁舎の設計手がけたのは…近代建築の三大巨匠の1人

〇岡山県庁の写真や動画撮る人たち

今、岡山県庁舎に熱い視線が注がれています。

(撮影していた人は…)
「この建物を見たいと思っていた」
「地元に住んでいると、すごい建築と気付かない」

旭川のほとりに建つ岡山県庁は県民のシンボルのような建物。今から70年近く前、前川國男によって設計された。

「日本のモダニズム建築の旗手」とうたわれた建築家・前川國男。戦前、フランスで「近代建築の三大巨匠」の一人、ル・コルビジュエに学び、美術館や博物館などの設計を全国で数多く手掛けました。

2025年は、前川の生誕120年にあたり、全国でその業績にスポットライトが当たっています。

◆前川設計の都道府県庁舎は岡山県庁舎のみ…当時の先端技術残る

岡山県庁舎は全国の都道府県庁の中で唯一、前川が手掛けた作品。改めてその特徴をデザイン面と機能面から見つめ直してみましょう。

岡山県庁と言えば、まずは全面を覆う、重厚感のある漆黒の壁。実はこの壁、建物自体の壁ではなく建物の外側をカーテンのように覆う構造になっています。建築当時は最先端の技術でとても珍しいものでした。表面の凹凸はデザインのためだけではなく、強度を高める役割も果たしています。

「庇」の機能を持つコの字型の空中回廊は開放的なアプローチを演出。壁には前川建築の特徴の一つ、穴空きレンガが使われていて、その壁は一筆書きのように建物を巡る形で設けられています。

◆高低差も生かした工夫も…

もう一つの大きな特徴が正面の広々としたピロティーとその奥にある庭園です。庭園は、見通しを良くするため、一段低い所に作られました。後にできた県議会の建物で現在は視界が遮られていますが、建築当時はその先の旭川まで見通すことができたそうです。

◆「開かれた県庁」象徴するのは…屋上の展望室

閉鎖的だった従来の役場とは一線を画す、前川流の「開かれた県庁」。それを象徴する場所がもう一つあります。現在は立ち入ることができなくなった、屋上の「展望室」です。

この展望室にはちょっと変わった仕掛けが施されているんです。

(萩原渉キャスター)
「県庁の屋上にこんなスペースがあることをは知りませんでした…。景色が最高。ただ・・・、揺れる」

床の四隅を天井からつっている「揺れる展望室」。前川國男がどんな狙いでこの不思議な空間を作ったのかは「謎」だそうです・・・。

「体を揺さぶると床が揺れて起震車のよう。なんでこんな作りにしたのか・・・?」

それにしてもこの屋上からの眺めは最高。
当時の三木行治知事は「この屋上に案内すれば、瀬戸内海のタイ、備前平野のマスカット以上のご馳走である」・・・・と話したそうです。

(岡山県建築指導課 喜多泰文総括参事)
「(前川建築の魅力は?)周囲の環境と調和しているところ、街なかに開かれているところ。県庁は当時「県民の家』として建てられたので大勢の県民に見に来てほしい」

◆近隣にある林原美術館も前川の”作品”

県は岡山大学の協力を得て県庁に加え、同じく前川が手掛けた岡山市北区の林原美術館、天神山文化プラザを紹介するパンフレットを作成。また、2024年5月から月2回のペースで、庁舎を巡るツアーも行っています。

(岡山県建築指導課 藤井理代技師)
「(ここは)建設当時のものが遺(のこ)っている場所。当時のガラスなので建設当時のガラス窓。外がゆがんで見える」

この日はツアーの拡大版。前川建築3カ所でそれぞれ3回のツアーが組まれ、県の内外の建築ファン、約200人が参加しました。ツアーでは「揺れる展望室」も見学可能。2024年、前川の業績や県庁の建物としての魅力を紹介するギャラリーも設けられました。

(京都からの参加者は…)
「建築家がここまでフィーチャー(注目)されるのは珍しい。保存や安全のために立ち入れない施設が多いが、自由に見させてもらえた」

(長野からの参加者は…)
「(Q:岡山は建築ファンにとって魅力的?)魅力的だと思う。岡山・広島・山口…。観光客に中国地方に来てもらえたら」

◆国の内外に建物の魅力伝えたい…英語版パンフも作成

前川建築の魅力を海外に発信する取り組みも始まっています。10月、県庁を紹介する英語版パンフレットの1次案が仕上がりました。

(岡山県建築指導課 喜多泰文総括参事)
「日本語版と違って英語版になると1ランク、グレードが上がる。海外の方が見られても面白い作品が出来たのでは」

英語版パンフレットは2025年中の完成を目指します。

(岡山県建築指導課 藤井理代技師)
「建築と観光の周遊ルートの作成や子ども向けの見学ツアーもいずれ実施したい」

◆耐震リニュールも終わり、貴重な建物は後世に…

建築から60年余りを経て老朽化が進んだ岡山県庁。建て替えではなく、耐震リニューアルを選んだことで、前川國男のデザインは保たれることになり、2024年、国の登録有形文化財に登録されました。

「開かれた県庁」を目指した前川の思いもまた令和の時代に受け継がれようとしています。

岡山放送
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