全国の食肉販売店の店舗数は、1979年には約4万4000店舗ありましたが、2021年には9300店舗にまで減少しています。これは肉を扱うスーパーや大型量販店の出店が広がったことが主な要因ですが、店の経営者の高齢化も進み、事業承継できずに店を閉じることも要因の一つです。
そんな中、永平寺町で2代60年続く精肉店では、30代の3代目が家業を継ぐ決断をしました。生き残りをかけて取り組む3代目の挑戦を取材しました。
◆「絶対に嫌」と思っていたが…継ぐことを決意
永平寺町にある、創業63年の精肉店「前田かしわ店」。長年地元の人たちに愛されてきた、いわゆる“まちのお肉屋さん”です。
2025年7月には旧店舗の近くに新たな店を構え、移転オープンしました。
10年以上通っているという地元の常連客は「親鳥とか硬いやつが好きなんで良く買いに来ている」。また、鯖江から通っているという常連客も「いろんな種類の鶏肉があるし、セセリとか若鳥のハラミとか美味しくて。なかなか売ってないので」と話します。
3代目社長の前田大志さん(31)は、元々は県内のアパレルメーカーで営業職を務めるサラリーマンでした。「高校生の頃から、お盆とか忙しいときは手伝っていて、結構大変だし、絶対に継ぎたくないと思っていた」と明かします。
しかし「父と母が高齢になってつぶすかつぶさないかという話になり、倒れるまでやるか、店舗を新しくして僕が事業承継するかみたいな話をして継ぐ決心をした」といいます。
1年半前から3代目として店で働き始めた前田さん。ただ、精肉店を取り巻く環境は厳しさを増しています。「ここ10年くらいで、ドラッグストアからスーパーまで多品種、安価なお肉が並ぶようになり競争が激しくなってきた。肉がおいしいだけではなく、来てもらえるように店の価値を私が伝えなきゃいけない」と発信力を強化することにしました。
◆インスタのフォロワーは1万人に
前田さんがまず取り組んだのは、SNSでの動画配信です。最初に配信した動画は、地元の人たちに愛され続けてきた店を無くしてはいけないと、サラリーマン時代の安定を捨てて店を継ぐ決心をした、という自身のストーリーを動画にしました。
今年4月にこの動画をアップすると、4日後には再生回数100万回を超える大反響。その後も、販売しているお肉の美味しい食べ方など、前田さん自身が広告塔になって定期的に動画配信を続けています。
現在、店のインスタグラムのフォロワー数は1万人に達しています。
◆自慢の商品を全国へ
もう一つ、新たに取り組んだのは―
長年、店の看板のお惣菜として親しまれてきた「親鳥のロースト」の広域流通です。親鳥の胸肉を2日間、特製のたれに漬け込んだ後、じっくりとオーブンで焼いて一口サイズに切ったものを真空パックにしました。
新しい店舗には、旧店舗にはなかった独立した総菜の加工室を設けたことで、店以外でも販売できる「広域流通」の営業許可が下りたのです。
そこでまず始めたのがクラウドファンディングです。「この商品を欲しいと思う人がどれだけいるかが見えなかった」という前田さん。「クラウドファンディングのような先行購入にすることで今後の展開が見えてくる」という考えで募集したところ「想定の2倍ぐらい購入してもらい、唯一無二の商品なんだと実感した」といいます。
クラウドファンディングで購入した客への商品配送は11月にも完了する予定で、その後は店舗販売や通販サイト、そして今後立ち上げる予定の自社ECサイトでの販売も見据えています。
◆目指すは創業100年
店では、2代目で前田さんの父の俊介さん(64)、母の真呂美さん(60)も一緒に働いています。父の俊介さんは「彼の意志も結構固かったし、正直嬉しかった。ほんとに思い切りやってよって感じで。期待というか…やるしかないんやよ、あなた、みたいな感じで。いい歳になったんで体動く限りは一緒にやっていきたい」と息子の奮闘を支えます。
前田さんは「僕が生きている間に創業100年を目指してやっている。皆さまに愛され続けるというのは大前提で、新しい取り組みとか全国にうちのお肉を知ってもらうきっかけを作り続けることが大事」と話します。
オリジナリティの高いお肉屋さんを目指して、生き残りをかけバトンをつないだ前田かしわ店が、新たな道を走り始めています。