プレスリリース配信元:国立大学法人千葉大学
千葉大学大学院医学研究院の平沢累 特任助教らの研究チームは、船橋整形外科病院の老沼和弘院長らと共同で、人工股関節全置換術(THA)(注1)で用いる太ももの骨(大腿骨)のインプラント部分 (ステム)の形状や素材が、術後早期に起こりやすい人工股関節周囲の骨折(POPFF)にどのような影響を及ぼすかを研究しました。その結果、ハイドロキシアパタイト(HA) (注2)という素材で特殊な表面加工をした「カラー(襟)付きHAステム(図1)」は、一般的に使用されている、断面がくさび(ウェッジ)形状で細長い「テーパーウェッジ型ステム」よりも、早期POPFFの発生率を有意に低減する効果があることがわかりました。
この結果により、骨が弱い人など骨折のリスクが高い患者に対しては、カラー付きHAステムを選択することで、安全なTHA手術の実現にもつながることが期待されます。
本研究成果は、2025年10月1日に英国学術誌The Bone & Joint Journalで公開されました。

■研究の背景
変形性関節症は世界中で約5億人が、国内では約3000万人以上が罹患しています。特に高齢者の患者が多く、その数は今後も増加傾向とされています。日本の介護保険制度において、要支援となる最大の原因であり、運動器障害による社会的・経済的負担は甚大です。中でも変形性股関節症(注3)は手術件数が年々増加しており、THAは高齢者を中心に広く行われています。
THA後の早期POPFFは、再手術の最も多い原因であり、患者のQOLや生命予後に深刻な影響を与えることが知られています。特に高齢者や骨粗鬆症患者などで発生リスクが高く、近年、その発生率は増加傾向にあります。これまで、POPFFのリスク因子として年齢、性別、骨形態、骨粗鬆症などが挙げられてきましたが、「ステムの設計がPOPFFに及ぼす具体的な影響」や、「より安全なインプラント選択の指針」については十分なエビデンスがありませんでした。本研究は、こうした背景から「異なる設計のステムが早期POPFF発生率に及ぼす影響」を大規模に検証し、より適切なインプラント選択と骨折予防戦略の確立を目指して実施されました。
■研究の成果
本研究では、THA後早期のPOPFFの発生頻度について、世界的にも日本国内でも最も広く使用されている、テーパーウェッジ型ステムとカラー付きHAステムの2種類の大腿骨コンポーネントを比較しました。対象は単一術者・単一施設で施行された4,511例で、年齢・性別・診断名などを統計的にマッチさせた各1,804例についてPOPFF発生率を比較しました (図2)。

早期POPFFは「術中や術直後のレントゲンでは確認できなかったが、術後90日以内に発生した骨折」と定義しました。その結果、カラー付きHAステム群では、POPFF発生率が0.11%と、テーパーウェッジ型ステム群(0.72%)よりも有意に低いことが明らかとなりました。骨折が減った理由として、研究チームは、以下を挙げています:
・ 「カラー」が骨に早く安定感を与える。
・ ステムが荷重をうまく分散させ、骨にかかる力を和らげる。
・ 二重テーパー構造により、骨とのフィット感が高い。
一方、術中骨折発生率はカラー付きHAステム群(3.49%)の方がテーパーウェッジ型ステム(2.00%)よりやや高いことが明らかとなりました。
■今後の展望
本研究により、カラー付きHAステムの使用は、THA後早期のPOPFF発生率がテーパーウェッジ型ステムよりも有意に低いことが明らかとなりました。これにより、ステム形状や固定様式の工夫が、患者予後改善につながるなど、臨床現場におけるインプラント選択・術式工夫にも応用が期待されます。
今後は、高リスク患者への適応、術中骨折予防策の強化、さらに本設計のステムの長期成績や他術式との比較検討を進めることで、より安全で有効な人工股関節手術の確立につながることが期待されます。
■用語解説
注1) 人工股関節全置換術(THA):傷んだ股関節を人工の関節に置き換える手術。
注2) ハイドロキシアパタイト(HA):骨とよくなじむ特性のある、骨の主成分と同様の素材。
注3) 変形性股関節症:股関節の変形性関節症。歩行障害や痛みの原因となりやすい。
■論文情報
タイトル:Collared fully hydroxyapatite-coated femoral components reduce early periprosthetic femoral fractures in total hip arthroplasty with the direct anterior approach : a matched cohort study
著者:Rui Hirasawa, Kazuhiro Oinuma, Shigeo Hagiwara, Takamitsu Sato, Yuya Kawarai, Yoko Miura, Junichi Nakamura, Seiji Ohtori
雑誌名:The Bone & Joint Journal
DOI:10.1302/0301-620X.107B10.BJJ-2024-1494.R1
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