暮らしに欠かせない路線バスの減便に歯止めがかからない。
年間40万人以上が利用する路線も廃止される事態に陥っている。
住民と自治体の苦悩が続く。
「もっと早く家を出ないといけないので、朝がつらい。時間にして15~30分は変わってしまう」(バスで通学する高校生)
1日160便以上が発着する、札幌市中央区の啓明バスターミナル。

「じょうてつバス」は、ここと南区の真駒内駅を結ぶ路線など3路線を12月のダイヤ改正で廃止することを決めた。
「これから冬を迎えてどんどん寒くなり布団から出にくくなるので、ちゃんと起きられるか、遅刻しないかという不安がある」(バスで通学する高校生)
さらに「北海道中央バス」も、12月から札幌圏で200便以上の減便を決めている。

かつて1日1万本以上が運行していた札幌市内の路線バス。
2024年は約7150便と3割近く減った。
ここ数年、減少に拍車が掛かっている。

厳しい状況は札幌市だけではない。
「いま走ってきたバスが、こちらの住宅街を走る唯一の路線の便です。廃止を受けて、利用者から不安の声が聞こえてきます」(木村洋太記者)
北広島市でも「北海道中央バス」が市内で運行する2路線のうち1路線を、2026年3月末で廃止することを決めた。
廃止されるのはJR北広島駅と住宅街を結ぶ「さんぽまち・東部線」で、平日は1日約70便が運行する市の大動脈。
「青天のへきれきで、びっくりした」
「やっぱり困る、習い事に行くので」(いずれもバス利用者)

廃止によって唯一の公共交通機関が失われる住宅街もある。
路線が廃止される地域の一部は高齢化率が約50%に上り、いわゆる「交通弱者」が多いエリア。
「自分で運転できて車に乗っている人たちはいいが、私は乗せてもらう方なので閉じこもってしまうことになる。変わったのはエスコンフィールド周辺だけで、ここまで波及しない」(バス利用者)

1月に路線の廃止を告げられた市は、バス会社と交渉を重ねたものの6月に廃止が決定した。
「深刻な乗務員不足によって、路線の維持ができないと言われた。年間約43万人も利用している路線の廃止に非常にショックを受けた」(北広島市企画課 下野直章課長)

路線廃止は住民にとって、まさに“死活問題”。
撤回を求める署名活動が続いている。
「バス乗員不足の大きな情勢はすぐには好転しないと考え、代替策を示すことが必要だと取り組んできた」(下野課長)

北広島市は国の補助金を活用し、既存路線のルート変更や別のバス会社の参入を働きかけるなどして、影響を最小限にとどめようとしている。
しかし、朝晩の通勤・通学の時間帯や土日の便数は大幅に減る見通しで、住民には不安が広がる。
「とりあえず朝だけでもあるといい」
「せめて半分以上は残してほしい」(いずれもバス利用者)

北海道のバス運転手の人数は、最盛期に比べ3000人近く減少している。
慢性的な人手不足に悩むバス業界では。
「運転手が減ったら減便するか、路線を廃止する手立てしかなくなる。減便が続くと運転手が得ていた残業代が減るという現象も起きてくる。金は国や自治体が責任を持ち、運営や経営は民間でやるという位置づけをしっかりとしてほしい」(北海道バス協会 今武常務理事)

超高齢社会を迎え、住民の交通手段として路線バスの果たす役割はますます大きくなる。
一方で、それを支える担い手不足は深刻化。
今後の路線バスのあり方について、公共交通に詳しい専門家は。
「便数を減らすだけではどうしようもなくなり、バス事業をやっていけないと意思決定するところが今後5年ぐらいで出てくるのではないか。『バス=大きな乗り物』という考え方はそろそろやめた方がいい。車を小さくしてタクシー会社などの協力を得るやり方もあるのではないか」(東京都市大学 西山敏樹教授)
大型車両の定時運行が運転手確保の壁になっていることから、車両を小型化してスマートフォンからの予約により運行する形態などを模索する必要があるという。
