コメ不足による価格高騰を抑えようと、石破政権ではコメの増産が打ち出されました。ところが、高市政権の発足直後には、新しい農林水産相が減産の方針を表明。短い期間で国の農政が大きく転換されることに、県内のコメ農家やJAはどう受け止めているのか。一方で消費者はどう感じたのか、取材しました。
◆農家は「値下げ、値下げ、備蓄米放出…とんでもない」
福井市内の水田50ヘクタールで、ハナエチゼンやあきさかりなど5種類のコメを育てている農家の白井清志さんが、コメを保管している倉庫に案内してくれました。
「これはあきさかりの新米で、石川県金沢市の寿司屋さんへ出荷します。猛暑の影響はそんなになかったですね」
白井さんは、これまでの国のコメ政策の変化について次のように語ります。
「石破元首相、小泉農林水産相のコメに対する感覚や政策というのが、私ども生産者にしてみれば、大変なお門違いで。値下げ、値下げと、備蓄米まで放出して値下げなんて、とんでもない話。今の鈴木新農水相の発言では、コメの増産体制はとらない、備蓄米は放出しない、価格は一定ラインで止まる、ということで大歓迎です」
高市内閣で入閣した鈴木憲和農林水産相は農林水産省の元官僚。就任早々、コメ政策について増産から大きくかじを切りました。「何よりも価格の安定性やこの先の投資も含めれて考えなければならない。需給バランスを元に“目安はこのくらい”と生産していくのが基本」と発言。コメ価格の安定を目指して鈴木大臣が打ち出したのは“減産も視野に入れた需給調整です。
鈴木大臣は「これまでコメの価格が安すぎた」とし「これまでの農林水産業の世界は、デフレの影響で安いものを極度に追い求める実態があった。コスト割れでも生産せざるを得なかった。これからは10年、20年先に向けて設備投資できる価格で買ってもらうということを理解してほしい」と農家が生産を持続させるため、消費者に理解を求めています。
◆消費者は「上がったり下がったり…安定させてほしい」
国が減産を決めれば、コメの価格は今後も高止まりが予想されます。消費者からは農政の方針転換に不安の声も聞かれました。
買い物客は―
「(値段が)早く落ち着いてほしい。上がったり下がったり。今度の農林水産省には期待している」
「何でもいいから安定させてほしい。やっぱり主食なので上がると困るし食べないわけにはいかないので困る」
「生産者のこともあるから難しいね…」
◆JA福井県宮田会長「農家が一番心配なのはコメ価格の暴落」
一方、福井市内では24日、JA県五連の定例会見が開かれました。
宮田幸一会長は「その時その時で判断されて農政が進んでいくことには若干疑問もある」と農政の急な方針転換に不快感を示しながらもコメの減産については歓迎しました。
その理由は、増産で積み上がったとされるコメの在庫の存在です。
鈴木大臣は会見で2026年6月末の民間在庫量が、直近10年で最も高い水準に匹敵する229万トンに上る見通しを示しました。コメの生産現場では価格の暴落が懸念されています。
宮田会長は「農家が一番心配しているのは、在庫が余って値下がりしないかということ、その辺は政府でブレーキをかけながらということで今回の発表があったのでは」との考えを示しました。
また、宮田会長は「小泉大臣の時にはコメの値段を下げる、とにかく価格を落とすんだということで備蓄米も放出されたが、その効果はあまりなかった」と苦言。農林水産省出身の大臣の登場に「まさに”はえぬき”。期待している」と語りました。
コメの価格を巡っては、私たち消費者も振り回されていますが、農家が継続して生産でき、私たちも安心して買える価格が望まれます。この難しいバランスをどう取るのか、鈴木農水相の手腕が問われています。