裾野市で大正時代から続く地酒専門店の4代目が手がけた芋焼酎がアジア最大級の品評会で金賞を受賞した。誕生のきっかけは曾祖父が残した巻物だった。

品評会で金賞受賞の芋焼酎

静岡県裾野市にある地酒専門店・みしまや。

創業100年あまりの老舗を切り盛りするのが4代目の江森慎さん(43)だ。

「歩」を紹介する江森さん
「歩」を紹介する江森さん
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江森さんが手がける裾野産の”紅はるか”と”きぬむすめ”にこだわった芋焼酎・歩はアジア最大級の品評会で金賞を受賞した。

その特徴は「ふかしたての焼き芋のほくほくしたような甘い香りが広がる芋焼酎。後味もすっきりしているので芳醇な芋の香りとすっきりした味わいがバランスよく仕上がっている」という。

父の病気で家業を継ぐことに

大学生の時までは陸上にのめり込み箱根駅伝で走ることを夢見ていたという江森さん。

家業を継ぐつもりはなく、卒業後は印刷機のメーカーへと就職した。

しかし、先代である父が体調を崩し、長期の入院を余儀なくされたことで人生が一変。

江森さんは「自分の身の振り方ひとつで『みしまや』が閉じるかどうかという本当に大きな岐路だった。みしまや自体にやれること・改善できることがある。できるところから少しずつ前に進んでいける可能性はあると思った」と振り返る。

そして、10年ぶりに実家へと戻り手探りながらも酒について勉強を重ねた。

曾祖父が遺した“巻物”を発見

家業を継いだ江森さんに転機が訪れたのは、みしまやを創業した曾祖父・真一郎さんが生前遺した巻物を見つけたこと。

そこには裾野産のキクイモを使って”萬年雪”という芋焼酎を作った日々のことが克明に記されていた。

曾祖父の巻物
曾祖父の巻物

そして、巻物の最後は当時の真一郎さんの思いをあらわした「超えて()し 茨の山路(やまじ)(ひら)いて今日(きょう) (とうげ)()(ようや)くに()く」という句で締めくくられていた。

ただ、手続きの不備により世に送り出されることはなかった萬年雪。

裾野市内の伏流水
裾野市内の伏流水

江森さんは、巻物を読んだ時の思いを「なぜ裾野のこの地域は水や自然に恵まれた環境なのにお酒を造っているところがないんだろうと素朴な疑問があった。でも、造ろうとしていた人が実際にいた。曾祖父がやろうとしていたことを初めて知って、僕の思っていた疑問と会ったことはない曾祖父が時を超えて出会ったような感覚でハッとした」と話す。

そして、約100年の時を超え、みしまやとして再び酒造りにチャレンジすることを決意した。

地元の人たちの協力が生んだ快挙

焼酎を作る上で甘みや香りを左右するのは、言うまでもなく原料となる芋だ。

NPO法人みらい建設部の宮坂里司さんは、江森さんが家業を継いだ当初から地酒造りの相談に乗っていて、高品質な紅はるかを提供している。

宮坂さんは江森さんについて「自分の思いだけで走ることはなく周りに気づかいできるので自然と人が集まる。話をしていて『これをやりたい』と言われると、知らず知らずに『イエス』と言ってしまっている」と笑う。

また、酒に造りに欠かせない米を育てるNPO法人里山会公文名ファイブの志田千麻さんも江森さんの思いに共感し、協力を申し出たひとりで、「裾野には造り酒屋がないから裾野の米、裾野の農産物を使った酒ができるというのはとてもうれしい。かなり順調に進んでいると思うので、これからも同じ方向を向いて進んでいってくれれば取り組みの輪も大きくなって、僕らもそこに関わっていければうれしい」と口にした。

こうした多くの支えもあって、アジア最大規模の出品数を誇る東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2025で焼酎&泡盛部門の金賞を獲得することができた江森さんは「地域の力・魅力が皆さんに見えるような酒を届けたい。裾野ならではの可能性をこの焼酎を通じて感じてもらえたらと思っていて、街の未来を語り合う景色の中にそっと歩が寄り添っていたらこんなにうれしいことはない」と地酒を通して地元の魅力を発信していきたいと意気込む。

曾祖父の夢を胸に、江森さんの地酒作りはこれからも続いていく。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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