静岡県裾野市で大正時代から続く地酒専門店の4代目が手がけた芋焼酎が、アジア最大級の品評会で金賞を受賞しました。誕生のきっかけは曾祖父が残した巻物でした。
裾野市にある地酒専門店・みしまや。
創業100年あまりの老舗を切り盛りするのが4代目の江森慎さん(43)です。
江森さんは2025年、ある快挙を成し遂げました。
みしまや4代目・江森慎さん(43):
こちらがアジア最大級の品評会で金賞を受賞した芋焼酎・歩。
「歩」と名付けられたこちらの酒は裾野産の紅はるかときぬむすめにこだわった芋焼酎です。
みしまや4代目・江森慎さん(43):
ふかしたての焼き芋のほくほくしたような甘い香りがすごく広がる芋焼酎で、後味も非常にすっきりしているので、芳醇な芋の香りとすっきりした味わいがバランス良く仕上がっている焼酎
大学生の時までは陸上にのめり込み、箱根駅伝で走ることを夢見ていたという江森さん。
家業を継ぐつもりはなく、卒業後は印刷機のメーカーへと就職しました。
しかし、先代である父が体調を崩し、長期の入院を余儀なくされたことで人生が一変します。
みしまや4代目・江森慎さん(43):
自分の身の振り方ひとつで、みしまやが閉じるかどうかという本当に大きな岐路だった。みしまや自体に問題というか、もったいないことの中に、やれること、改善できることがあるのに、ただ苦しい、大変ということだけだったので、できるところから少しずつ前に進んでいける可能性はある。逆に大変なところがチャンスだと思った
そして10年ぶりに実家へと戻り、手探りながらも酒について勉強を重ねました。
みしまや4代目・江森慎さん(43):
店に帰って片付けをする中で、(仏壇の)曾祖父にも帰ってきたことやこれから少しずつ前に進めていくことを日々報告していた時に、たまたまパッと目に入った。ここに置いてあり、それを少し見て知った
転機はみしまやを創業した曾祖父の真一郎さんが生前残した巻物を見つけたこと。
そこには裾野産のキクイモを使って”萬年雪”という芋焼酎を作った日々のことが克明に記されていました。
そして、巻物の最後は当時の真一郎さんの思いを現した句で締めくくられています。
真一郎さんが残した巻物より:
超えて来し 茨の山路を拓きて 今日 峠路に漸くに漬く
ただ、手続きの不備により世に送り出されることはなかった萬年雪。
そこで約100年の時を超え、みしまやとして再び酒造にチャレンジすることを決意しました。
みしまや4代目・江森慎さん(43):
なぜ裾野はこれだけ水や自然に恵まれた環境にもかかわらず、酒を造っているところがないのかという素朴な疑問を(みしまやへ)帰ってくる前に思っていた。造っていなかったわけではなく、造ろうとしていた人が実際にいた。それをたまたま曾祖父がやろうとしていたことを初めて知り、僕の思っていた疑問と、会ったことはないけれども曾祖父が時を超えて会ったという感覚。当時はハッとした
焼酎を作る上で、甘みや香りを左右するのは言うまでもなく原料となる芋。
裾野市内で紅はるかを育てている宮坂里司さん。
江森さんが家業を継いだ当初から地酒造りの相談に乗っていて、高品質の紅はるかを提供してくれています。
NPO法人みらい建設部・宮坂里司さん:
(江森さんは)自分の思いだけで走ることはなく、周りの人への気遣いがあり自然と人が集まる。話をしていて「これをやりたい」と言われると、知らず知らず「イエス」と言ってしまっている
NPO法人里山会公文名ファイブ・志田千麻さん:
実入りはしっかりしているが、収量がどれくらいになるか刈ってみないと分からないところはある。酒の分のコメは十分確保できると思う
また、きぬむすめを育てる志田千麻さんも江森さんの思いに共感し、協力を申し出たひとりです。
NPO法人里山会公文名ファイブ・志田千麻さん:
裾野には造り酒屋がないので、裾野のコメ、裾野の農産物を使った酒ができるのはとてもうれしいと思った記憶がある。かなり順調に進んでいると思うのでこれからも同じ方向を向いて進んでくれれば、どんどん取り組みの輪も大きくなっていくと思うし、僕たちも微力ながらそこに関わっていければそれはうれしいなと思う
みしまや4代目・江森慎さん(43):
地域の力や魅力が芋焼酎・米焼酎を通してみなさんに顔が見えるような酒が届けられたらうれしい。すべてはみなさんのおかげで、それ以外の何物でもない。感謝しかない
多くの支えもあって、アジア最大規模の出品数を誇る「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2025」で焼酎&泡盛部門の金賞を獲得することができた江森さん。
曾祖父の夢と感謝の思いを胸に、地酒を通して裾野の魅力をさらに発信していきたいと意気込みます。
みしまや4代目・江森慎さん(43):
裾野ならではの可能性をこの焼酎を通じて感じてもらえたらと思っている。街の未来を語り合う景色の中に、そっと(歩が)寄り添っていたらこんなにうれしいことはない