(森岡紗衣記者)
「岡山県吉備中央町にある浄水場から有害性が指摘されている有機フッ素化合物・PFASが検出されたと町が発表してから10月17日で2年です。田んぼの近くの沢で高濃度のPFASが検出されコメ作りを諦めた男性がいます。今の思いを取材しました。

辺り一面、背丈よりも高い雑草に覆われ、荒れ果ててしまったこの場所。かつては50アールほどの田んぼでした。

(石川誠二さん)
「悔しいのは、自分が原因でなったなら仕方ないが、違う原因でこうなったのが悔しい」

岡山県吉備中央町、円城地区に住む石川誠二さん(67)。PFASの問題が明らかになってから、代々受け継いできたこの田んぼでのコメ作りをストップしています。

(石川誠二さん)
「今年(2025年)の春には草を刈った。半年ほどたつとこんな状態で草が生えてくる」

2年前の10月17日、多くの町民の飲み水が供給される円城浄水場から国の指針値を大幅に上回る有機フッ素化合物・PFASが検出されたと山本雅則町長が公表しました。

(吉備中央町 山本雅則町長)
「国の暫定目標値を超えていたことが判明したため給水対応を取ったが、対応が遅れたことをおわびする」

原因は町内の業者が水源付近の資材置き場に約15年もの間、野ざらしで置いていた使用済みの活性炭。住民に健康被害はあるのか責任の所在はどこにあるのか、町は不安と混乱に見舞われ、この問題は連日のようにメディアで報じられました。

コメやハクサイなど農業も盛んな吉備中央町、円城地区。町は農作物について検査を行った全てのコメやハクサイからPFASが検出されなかったとして影響はないとしています。

それでも石川さんはこれまで通りコメを作る気持ちにはなれなかったといいます。その理由は。

(石川誠二さん)
「活性炭を置いていたPFASが出たところがここ。そこ(土壌)に染み込んだPFASが今でもこの川を流れている。向こうにある田んぼがある。この水を引き込んで田んぼに水を入れてコメを作っていた」

石川さんがコメ作りに使っていた水です。石川さんが作ったコメからPFASは検出されませんでしたが、この沢では今でも国の指針値の152倍(25年9月時点)という高濃度のPFASが検出されています。

使用済みの活性炭が置かれていた資材置き場までの距離は約600メートル。専門家は活性炭から近くの河川に染み出した可能性を指摘しています。

(石川誠二さん)
「町の方でも2年前にできたコメを調べてもらった。コメにはPFASは入っていなかった。町にも作っていいといわれたが、そんなコメを作って皆さんに食べてもらうのはどうかなという気持ちがあるので、もうやめているだけ」

この沢の水で農業を行っているのは石川さんだけ。ほかの農作物に対する風評被害を懸念してこれまで田んぼの公開には積極的ではなかったといいますが、2年がたった今、取材を受けた背景にはある思いがありました。

(石川誠二さん)
「原因を出したところに対して何とかしてほしい。国が動いていると思うが、原因を出したところに責任があると思うので、1日でも早く動いてもらえれば」

2024年11月から希望する住民に対して公費での血液検査が実施されたほか、9月、国がPFASの濃度を低減する実証事業を始めるなど少しずつ前に向かって進んできた2年という月日。しかし、活性炭の流出経路や扱った業者の責任についていまだに具体的な説明がないことに石川さんは憤りを感じています。

(石川誠二さん)
「怒りはもちろんある。この辺りの水は山しかないから、本当はきれいな水」

将来、この場所からPFASが検出されなくなれば、またコメ作りを再開したい。それが、2年たった今、石川さんの願いです。

(石川誠二さん)
「手間だけど年に1回草刈りして管理していこうと思う。(Q:いつか再開するときのために?)そうそう。それが5年後なのか6年後なのか10年後なのかわからないが、10年後だったらもうやめると思う。原因を出した企業にもう少し状況を考えて 対応を早くしてもらいたい」

(森岡紗衣記者)
「取材のなかで石川さんはほかの農作物への風評被害を懸念していました。田んぼの近くの沢からは現在も高濃度のPFASが検出されていますが、作ったコメ自体からは検出されていません。他の農作物からもPFASが検出されていないことを改めて知ってほしい、そして自分が話をすることで原因を作った企業などに責任の取り方を考えてもらいたいと話していました」

「一方で、前向きな動きもあります。新型コロナ・PFAS問題などで中止になっていた“まち歩き”のイベントが11月9日に、6年ぶりに再開するということで石川さんもこれを機に町の魅力を知ってほしいと話していました」

岡山放送
岡山放送

岡山・香川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。