テレビ番組をもとにした本の制作を巡って、出版社とフリーの編集者が対立した。編集者は「一方的に契約を切られた」として、損害賠償を求めて裁判を起こしたが、出版社側は「正当な理由がある」と反論。東京地裁は9月、出版社の主張を認め、編集者の訴えを退けた。認識のズレはなぜ起きてしまったのか。その舞台裏をたどる。

編集者が担った「一式」の仕事

2021年5月、宝島社の担当編集者は、原告のフリー編集者に対して書籍制作を打診した。原告はこれを受け、ライターや作画家の候補者を挙げ、実際に外注者に業務を発注して制作を進めていった。

原告の主張によれば、依頼されたのは「書籍全体やマンガパートの構成に関するシナリオの作成」「マンガの作画」「本文の執筆」「本文デザイン」など、表紙デザインを除く制作業務一式だったという。

実際、外注者とのやりとりや進行管理はすべて原告が担っており、外注者も宝島社ではなく原告を契約相手と認識していた。

著者の意向と「作り直し指示」

制作が始まった当初、原告は宝島社の担当編集者と協議を重ねながら、ライターや作画家を集め、シナリオの構成を進めていた。

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ところが2021年5月下旬から6月にかけて、書籍の元となった番組テキストの著者で、経済思想などが専門の東京大学大学院・斎藤幸平准教授から、「男性にマルクスを語らせたくない」との強い要望が寄せられた。

これにより、原告が提出していたプロット案は著者の意向に合わないとされ、制作方針の見直しが必要となった。

その後、7月に宝島社の担当者は原告に対し、プロットの仕切り直しを正式に指示。原告はすでに進めていた作業を中断し、外注先に再度連絡を取り、シナリオの再構成に取り組んだ。

折り合いつかず契約解除へ…

再構成作業は難航し、8月下旬になって、ようやく第1章のプロット案が提出された。

これに対し、宝島社は「このペースでは制作に時間がかかりすぎる」と懸念を伝えた。原告は、シナリオライターの体調不良などを理由に作業の遅れを説明したが、制作スケジュールはすでに逼迫していた。

さらに、著者が出演する番組が12月に放送予定であることから、宝島社は書籍の年内出版を希望していた。だが、原告は「出版は春前になるかもしれない」と応じ、スケジュール面での折り合いがつかなかった。

こうした経緯を経て、9月、宝島社は原告に対し「この企画については、制作陣の仕切り直しをさせて頂きたい」として、契約の解除を通知した。