江川・江夏・北別府…いい投手の球には「品」がある伝説
徳光:
1年目から豊さん1軍で。初スタメンは5月10日の巨人戦、2番セカンドでということで。もう1年目から5月にはスタメンで出てたってことですか?

高木:
初スタメンの時が(相手投手が)江川さんなんです。3三振。前に飛ばなかったんです。当たるんですけど飛ばない。

徳光:
この試合だったんじゃないですか、江川投手が14奪三振か何かの。
高木:
そうですね、たぶん。
それで終わってからミーティングがありました。「三振したやつ来い」みたいな。
徳光:
ほとんど全員。

高木:
全員、全員。全員行くんです。
だけど、なんて言うんですかね、江川さんから三振しても気持ちよかったですね。真っ向勝負で来てくれるんで。
徳光:
本当にストレートとカーブだけでした?
高木:
本当にそうですね。
徳光:
でも打てなかった?

高木:
打てなかったですね。真っすぐは人の真っすぐとはちょっと違いましたもんね。やっぱ伸びとか、回転とか。ものすごく“品”がありましたね。
やっぱいいピッチャーって“品”がありますね、ボールに。
徳光:
ボールの品格が。例えば江川以外でいうと、どんな選手が挙げられます?

高木:
もう江夏(豊)さんと、オールスターで、もう本当晩年なんですけど、1打席だけあるんですよ、対戦が。あの時のボールの品の良さ。やっぱり初球から打つのもったいないんで。
だって江夏さんもう晩年だし、いつ引退するか分からないじゃないですか。
ものすごく回転がきれいだった。

高木:
あとは平松(政次)さんの紅白戦で立った時。ああやっぱり勝てる人って、こんな回転いいんだみたいな。そういうのを感じましたね。

徳光:
べーやん、どうでした?北別府(学)さん。
高木:
この人は本当にコントロールが良かったですね。
徳光:
良かったですよね。

高木:
いや、やっぱり“品”も良かったですよ。パーンと見逃した時、「ストライク」って言うから、「えっ、いっぱいですか?」って言ったら、「いっぱいだ」と。
そのあと、ちょっと外れるんですよね。で、「ストライク」って言うんですよ。「いや今のは絶対ボールですよ」って。僕は選球眼、めちゃくちゃ自信あったから。
「ボールでしょ」って言ったら、「いや入ってる」と、かすってるんだと。
いや僕もちゃんと見てると。見えてるんですかって。
「豊、お前ちょっとシュートかけてるの分かったか」って言うから。分かんなかったんですよ、僕、それが。だからかすってるって言うんですよ。
本当ですかって、シュートしました?って。
そしたら達川さんが「シュートしてるけぇ」言うて。「シュートじゃけぇ」言うて。
本当ですか?みたいな。
徳光:
ごめんなさい。品がいいっていうのは回転がいいってことなんですか?
見逃したときにどういうボールが品がいいっていうふうに。

高木:
やっぱりね、なんかこう本当に1mmの狂いもないぐらいの。真っすぐ来るんですよ。もう本当に縦回転で、伸びてるのか分かるんですよ。何か糸引いて来ている、ああすごかったなって。
槙原(寛己)は速かったですけど、“品”は1回も感じなかったです。
大洋にもあった!「地獄の伊東キャンプ」伝説
徳光:
2年目から関根潤三監督になって。そのオフに大洋版「地獄の伊東キャンプ」。

高木:
だから巨人が長嶋さんが監督になられて、伊東キャンプっていう。その時、関根さんもつきあってて。そのメニューを同じようなメニューをやらされましたね。めちゃくちゃ苦しかったですね。

高木:
伊東のグランドって、スタンドからこう降りて、グランドに降りるわけですけど、これがまともにまっすぐ降りていけないんですよ。後ろから降りていかないと足が笑っちゃって。もうコケそうになるんで。みんなこうやって後ろから降りていってグラウンドに入る。
そのぐらい足がパンパンだったし、でも今思えば、あれがあったから成績もちゃんと挙げられたし、いいキャンプだったかなっていうふうには今は話せますけどね。
徳光:
当時は?
高木:
当時は話せないですよね。また関根さんがニコニコニコニコニコしてるんですよ。
何が面白いんやとか思いながら。ニコニコニコニコしてね。
徳光:
あのしゃべり口調で。
高木:
タバコのフィルターをボツボツボツボツしながら。何なのこれ、みたいな。

徳光:
でも当時はですね、関根監督の時も(同じセカンドに)基さんがいましたよね。
高木:
そうですね。3年目の時ですかね。2年目の時はセンターに入ったりだとか、サードに入ったりとか、いろんなユーティリティーでいろいろやってて。
徳光:
動きましたかね?
高木:
3年の時っていうのはオープン戦全試合出て。
徳光:
高木さんが。

高木:
それでいよいよ開幕だといった時に、先発外されたんですよ。えっ、みたいな。俺のオープン戦は何だったんだと思って。

高木:
もうグレようかなと思ってたら、次の日、関根さんが後ろに来て、「豊、これから129試合、お前は全部スタメンで使う」と、セカンドで。「開幕はちょっと基に譲ってもらった」と。「だけどおまえ、基が納得できるだけの成績を絶対残せよ」って言われて。「分かりました」と。
いうようなことで、初めての3割を打つわけですけど。
徳光:
そうですよね。
高木:
その時やっぱり、使い始めてから基さん、あいさつしてもあいさつしてくれなかったです。「このやろう」と思って。でも、やっぱり3割を打てたという、ある程度の納得の成績が残せて、そうしたらやっぱり認めてくれたのか、あいさつしてくれました。

徳光:
それは打率だけじゃないでしょうね。ダイヤモンドグラブ賞も取りましたからね。
高木:
そうですね。すごくやっぱりそのあいさつというのはうれしかったですね。
掛布雅之との対決で平松政次「エースのプライド」伝説
徳光:
当時はまだ、平松さんが現役でいらっしゃいましたので。今プロ野球ニュースでご一緒されていらっしゃいますけど。結構ベテランがいらっしゃいましたね、高木さんがそれこそレギュラーつかんだ時っていうのは。

高木:
平松さんというのは、やっぱり僕の中ではエースだったんですよね、その時も。
ピンチになって、阪神戦で。関根さんが出てきて、平松さんのことを「マサ」って呼んでたんですけど、「マサ、やめとくか?」って言ったんですよ。次、掛布さんで。
「いや次の掛布だけは行かせてください」と。それで決めてくださいと。
じゃあ分かったということで、関根さんが帰られた。

髙木:
で、もうね、爆発音ですよ。カーンって行って、センターバックスクリーンに放り込まれたんですけど。鼓膜が破れるかっていうぐらいの音がして。
打たれた瞬間に平松さんがマウンド降りて、同時に関根さんが出てきた。「かっこいいな」と思いましたよ。やっぱエースやなと思いました。そこで初めてプロのエースというか、やっぱり男としての勝負をしてるんだなっていうのを。
徳光:
映画のシーンですね。
高木:
のワンシーンを本当に見るような。
徳光:
登場人物全員かっこいいですね。
高木:
あのシーンはちょっと忘れられないですね。
【後編に続く】
(BSフジ「プロ野球レジェン堂」 2025年9月9日放送より)
「プロ野球レジェン堂」
BSフジ 毎週火曜日午後10時から放送
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