10月15日からアメリカで世界最大級のビジネスコンテスト『スタートアップワールドカップ』の決勝戦が開かれます。
この決勝戦に熊本から出場する健康食品の製造・販売を行う『トイメディカル』。「塩分を気にせずおいしいものを食べてほい」。そんな思いで開発した画期的な技術で世界に挑みます。
【トイメディカル 竹下 英徳さん】
「こんなおいしい料理を食べても全く塩分を気にしなくていい日がやってくる」
ことし5月、熊本市で開かれた『スタートアップワールドカップ九州予選』。
ゼロから新規事業を作り出し、急激な成長を目指す、いわゆるスタートアップ企業が
自社のビジネスやアイデアを競います。
【スタートアップワールドカップ九州予選】
「優勝に輝いたのは…トイメディカル」
世界大会につながる国内予選の一つ、九州予選では、健康食品の製造・販売を行う
熊本市南区の『トイメディカル』が優勝しました。
東京・東北・九州の3箇所で開催
〈食事の味を変えずに塩分の吸収を抑制する〉という技術が高く評価されました。
【トイメディカル 竹下 英徳さん】
「世界で初めて、減塩するのではなく、塩分をオフセット(相殺)することで
摂取量を抑えることに成功した」
世界初とされる『塩分オフセット』とは、味噌汁に入っているワカメなど海藻の〈ぬめり成分〉にヒントを得てトイメディカルが開発したものです。
この〈ぬめり成分〉の正体は『アルギン酸類』と呼ばれる食物繊維で、塩分を吸着するという性質を持っています。
通常、食事に含まれる塩分は全て体に吸収されますが、食事と一緒に『アルギン酸類』を摂取すると、塩分を吸着し、便と一緒に体の外へ。
これによって、体に取り込まれる塩分の量が減るという技術です。
トイメディカルはこの技術を生かし、食事の前に3粒飲むと約1グラムの塩分の吸収を抑えるサプリメントや、塩分の吸収が実質ゼロになるように作られた塩などを製造し、販売してきました。
9月、東京ビッグサイトで開かれた国内最大級の新商品・生活雑貨の見本市『ギフト・ショー』でも注目されたといいます。
商品化に向け、トイメディカルと一緒に共同研究を行った製剤設計学が専門の熊本大学、本山 敬一教授です。
【熊本大学・本山敬一教授】
「食事に塩分は感じることができるが、吸収されずにそのまま外に出ていく技術。
ストレスなく、食事を楽しみながら塩分の吸収を抑えることができる技術として
意味があると思う」
『アルギン酸類』そのものは、独特の臭いがしたり、水に反応すると強いぬめりが出たりしますが、特殊なコーティングなどを施すことで、食品への応用の幅が広がったといいます。
【熊本大学・本山敬一教授】
「知らない間に食事の中に技術が含まれている・使われているとなれば、自然と塩分を摂取する量が減ってくる。慢性疾患のリスクも下がるし、医療の面でもアドバンテージ(強み)が出てくるのではないか」
九州予選でプレゼンを行った竹下 英徳社長。優勝後のインタビューで、きっかけについて次にように語っていました。
【トイメディカル 竹下 英徳 社長】
「始まりは、僕の友人が人工透析になって〈ラーメンが食べられない。何とかしてほしい〉というところから始まった」
竹下さんは天草市御所浦町出身の52歳。兵庫県立大学を卒業した後、東京の製薬会社に就職しました。
その後、県内の製薬会社に転職し、医薬品や医療機器などの研究開発に携わった竹下さん。40歳の時に『トイメディカル』という会社を興し、人工透析の患者向けに
刺激の少ない医療テープなど医療機器の製造・販売を始めました。
その後、人工透析を受けている友人との会話をきっかけに、現在のビジネスへと転換を図ったといいます。
【トイメディカル 竹下 英徳 社長】
「『僕らが分からないような困っていることはないの』という話をしたら『医療機器とか全く関係ないかもしれないけど本当に食事制限が大変なんだ』と」
「本当に困っていることに対してのソリューション(解決策)を考えていくことが
自分たちみたいなスタートアップの役目だなと思って」
あの時、「ラーメンが食べたい」と話した友人の願いをかなえようと、新たな取り組みにも挑んでいます。
〈味千拉麺〉でおなじみの『重光産業』とコラボし、2年前から、塩分を気にせずに食べられるラーメンの開発を進めています。
この日は、『アルギン酸類』の配合を変えた3つの試作品を食べ比べました。
【食べている様子・会話】
【トイメディカル・竹下英徳さん】
「いつも食べている味千さんの味がこっちですよね」
【重光産業・吉本 隆徳さん】
「私の感触だと二つ目に食べたのが、影響がなく、素材(塩分オフセット技術)が入っても商品に影響を与えずに作ることができると思った」
『重光産業』で商品開発を担当し、30年以上、毎日のようにラーメンを食べているという吉本 隆徳さんも今回の共同開発に期待を寄せています。
【重光産業 商品開発を担当吉本 隆徳さん】
「減塩に取り組んだこともあるが味まで薄くなってしまう。今回は味は変えずに塩分を下げてくれる、吸収を抑えてくれる画期的な開発品ということで魅力的に感じています」
【トイメディカル 竹下 英徳社長】
「(味千拉麺の)オリジナルの味を邪魔しない。でも塩分の吸収を抑えるのが目標。
それぞれの味のまま〈罪悪感〉なく食べてもらうそんな商品ができたらいいな」
塩分を気にせずに食べられるラーメン。来年春の販売を目指し、試行錯誤が続きます。
10月15日からアメリカ・サンフランシスコで開かれる『スタートアップワールドカップ』の決勝戦。竹下さんは、英語でのプレゼンの練習を重ねています。
【トイメディカル 竹下 英徳社長】
「僕らのマーケット(市場)は世界中にあると思っている。もっというと、世界中で
僕らの価値を伝えていくことは非常に重要だと思ってます。そこをしっかりと今後、今回の大会で伝えていけたらいいなと思っています。アメリカは規模が全然違うので、我々の技術を高く評価してくれるようなパートナーが見つかったらいいな」
〈塩分を気にせずおいしいものを食べてほしい〉。そんな思いを実現した画期的な技術を世界に披露します。