実りの秋を迎えたものの、いまだ終息の兆しが見えない令和の米騒動。その影響は酒造りにも暗い影を落としている。

イベントが盛況でも蔵元は…

2025年9月14日にJR清水駅前で開かれた”地酒ストリート2025”。

全国の蔵元が集結し、静岡が誇る自慢の地酒から海外でも愛される全国の銘酒までずらりと並んだ。

イベントの来場者(静岡市清水区)
イベントの来場者(静岡市清水区)
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ただ、来場者の満足げな表情とは裏腹に、出展している蔵元の表情はいまひとつ冴えない。

青島酒造の青島孝 社長が「(酒米の)値段が食用米以上に上がっている。固定費が随分上がってしまうので経営的には厳しい」ともらせば、三和酒造の鈴木孝昌 専務も「酒米の農家が減ってしまい影響がある。値段を上げざるを得ないがお客さんにリーズナブルな価格で提供したい思いもありギリギリの戦い」とこぼす。

聞こえてきたのは日本酒の原料である酒米の高騰に喘ぐ声だ。

令和のコメ騒動はここでも

静岡市清水区由比で113年続く神沢川酒造場。

現在、酒造りはオフシーズンだが、仕込みに向けてこれから仕入れる酒米の価格上昇は深刻な状況となっていて、望月正隆 社長は「去年に比べて70%くらい(上がる)と思っていたが、100%超上がっているものもあるので、最終的に3月くらいまでの間の酒米価格を見てもう一度(商品の)価格を変更せざるを得ないくらいの上り幅」と話す。

神沢川酒造が使用している酒米の1つが県内産の令和誉富士。

日本酒(神沢川酒造)
日本酒(神沢川酒造)

2024年の仕入れ価格は60kgあたり1万7000円ほどと前の年と比べて約20%値上がりしたが、2025年はさらに高騰して3万円を超える見通しで商品への価格転嫁が避けられない状況となっている。

このため、望月社長は「値上げ幅はかなり大きくなるが、そうなったときに市場の感覚と商品の価格がマッチするのか」と危機感を募らせる。

酒米より価格が高い食用米に転作

さらに追い打ちをかけているのが酒米の作付面積の減少だ。

静岡県内産のコメ価格推移
静岡県内産のコメ価格推移

JA全農によると、2024年に収穫された県内産のコメの60kgあたりの価格は、食用米のコシヒカリが日本酒の原料となる令和誉富士を大きく上回った。

その結果、酒米の栽培から収益性の高い食用米へと転作する農家も増えていて、県内における酒米の作付面積は2024年から2025年にかけて15%ほど減少している。

焼津市で酒米を育てている八木青空農場・八木栄幸さんは、県内の酒造に協力したいとの思いから栽培を続けているが、昨今の市況から「酒米はやりづらい。価格が安いとなると普通のお米を作った方が経営的には有利。(酒米の)価格から見るとやめたいというのは正直あった」と本音をのぞかせる。

八木さんによれば、60kgあたりの価格を比較した時に、2024年は食用米と酒米とで最大5000円の開きがあったといい、「余れば安くなる、足りなければ高くなるということは米の世界ではあってほしくない。苦しい思いをするために米を作りたくないのでバランスよく酒米にも飼料用米にも十分米が行く状況をつくってもらいたい」と価格が急激に変動しないような流通システムの構築を望んでいる。

行政も対策に乗り出すが…

酒米が危機に瀕する中、全国では酒造業に補助金を出す自治体も増えていて、県内でも酒造組合が県に支援を要望した。

これを受け、県議会9月定例会では県内の酒造会社が静岡産の酒米を購入する際の補助金として約1000万円を計上した補正予算案が上程されている。

収穫前のコメ(資料)
収穫前のコメ(資料)

一方で、神沢川酒造場の望月社長は「静岡のメーカーは誉富士だけでお酒をつくっているわけではない。誉富士以外の一般の(もろみ造りに使われる)掛米や加工米も農家につくってもらっているので、こういうところも補助してもらえるようになると本当に助かる。ぜひお願いしていかないといけない」と悲痛な表情を浮かべる。

「地酒ストリート2025」の来場者
「地酒ストリート2025」の来場者

米の価格が安定しない中で地域の酒造りを守ることができるのか…酒造会社の苦悩はしばらく続きそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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