昼夜を問わず人と車を運ぶ鹿児島市の桜島フェリー。

30日未明に深夜便の運航が終わり、40年余り続いた24時間運航が終了しました。

利用者の減少で“経営の舵”を大きく切る形となった見直しとは言え、長年、親しまれてきた深夜便をめぐっては桜島で暮らす人、フェリーを使う人、それぞれの思いがありました。

夜も明けきらない30日午前3時半。

桜島フェリーの最後の深夜便が鹿児島港を後にします。

静かなデッキで街の灯りに思いをはせるのは、フェリーが大好きという愛知県から訪れた乗客。

愛知からの乗客
「短距離の航路で24時間運航はないので、いい記念になった」

最終便は旅客6人、車両3台を桜島へ渡し、40年余り続いた24時間運航が終わりました。

鹿児島港と桜島港を4隻のフェリーで代わる代わる運航する桜島フェリー。

物流にも欠かせない生活航路です。

深夜便による24時間運航が始まったのは1984年。

その頃のニュース映像です。

当時の乗客
「1時間おきでいつでも帰れるのがメリット」
「フェリーがずっと動くので、行き来が多くなるのでは」

車両甲板は深夜でも車で埋まり、客室も多くの乗客でにぎわっていました。

鹿児島市と合併する前の桜島町の広報誌には「『人口増』の糸口開く」。「Uターンに期待」。

期待の見出しが躍ります。

桜島フェリー元船長・谷口和矢さん(71)
「これを着ると身の引き締まる思いがする」

37年間フェリーの船長を務めた谷口和矢さん。

現在は引退し、桜島で暮らす谷口さんも当時の賑わいを懐しみます。

桜島フェリー元船長・谷口和矢さん(71)
「その当時はみんな生き生きして乗船していた。(桜島への)帰りは、おなかがすいてやぶ金のうどんを食べるのが日課のようだった」

ではなぜ、深夜便はなくなったのか。

こちらは桜島フェリーの年間輸送量のグラフです。

2014年度に東九州自動車道が鹿屋市まで開通すると、旅客、車両ともに急降下。

さらに追い打ちをかけたのがコロナ禍でした。

その後、輸送量は盛り返しているものの、燃料高騰なども大きく影響し、桜島フェリーは2015年度以降赤字が続いています。

鹿児島市船舶局・堀田竜也次長
「島民の生活の足を奪うことになるので、我々としては苦渋の選択だった」

これに伴い、鹿児島市が判断したのが午前0時から3時台までの深夜便の停止でした。

この方針に桜島の住民の反応は・・・。

無職(75)
「非常に残念です。深夜に出たことがあり、だいぶ助かった」

タクシー運転手(74)
「(深夜便の停止は)当然のことでしょう。もっと早くすべきだった」

ブドウ栽培農家(76)
「フェリーが止まるということは遮断されたような気持ちになる。夜中が」
Q.寂しさやつらさは?
「それはある。桜島がだんだん衰退していくから」

深夜便を利用する人たちは何を思うのか?

運航終了前の9月19日、フェリーに乗り込みました。

桜島港を午前1時発の便に乗った車はわずか2台。

静まりかえった客室に1人座っていたのは、桜島でイカ釣りを楽しんだ熊本の男性でした。

熊本からの釣り人
「夜間の運航がなくなるというので、(釣りの)ついでに渡ってみようと思い」

その折り返しとなる鹿児島港発の便には大隅方面のコンビニへ向かうトラックが乗って来ました。

コンビニ配送の運転手
「(深夜便は)採算が取れていないと思う。1台や2台では」
「10月から高速で鹿屋方面へ行く。陸路で」

そして鹿児島市街地での飲み会で遅い帰りとなった桜島の住民は。

飲み会帰りの桜島の住民
「ないとさすがに困る。他に削るところがあるのではないかと思う」

桜島港を午前3時に出る便にはこんな人も。

肝付町の荒武一廣さんです。

肝付町・荒武一廣さん(74)
「これはフエフキダイ。(肝付町の)高山産」

トラックの荷台には地元で水揚げされた魚が。

荒竹さん
「(午前)1時40分ごろ家を出ました」

肝付町から鹿児島市の市場へ卸すため、午前3時の桜島フェリーを利用してかれこれ50年以上。

深夜便がなくなる10月からは陸路も考えましたが、体力的に難しく、午前4時の便に切り替えます。

心配なのはこの1時間のロスです。

荒武さん
「(市場での)仕事の段取りや競争力が落ちる。大変だと思う。今までよりは」

深夜便の終了に利用者は様々な思いを抱いていました。

24時間運航の終わりという大きな転機を迎えた桜島フェリー。

ちょうど40年前、24時間運航が始まった日に職員になったという桜島支所の竹ノ下武宏支所長はこんな思いを抱いています。

鹿児島市役所 桜島支所・竹ノ下武宏支所長
「(桜島に)住んでいる人も一緒にこのフェリー事業はつくらないといけない。お互いにいい関係で、いい交通手段として残していきたい」

深夜便はなくなりますが、1日からは急病人の搬送などに備え、桜島港には船員を乗せたフェリーが待機します。

“時代の変化”という向かい風を受ける桜島フェリーですが、これからも、フェリーを必要としているさまざまな人々の思いを載せて、新たな時代を進みます。

鹿児島テレビ
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