高速・長距離・長時間潜行可能な原子力潜水艦
海上自衛隊が現在保有する潜水艦より長距離・高スピードの潜行などを可能とする原子力潜水艦の導入を求める声が一部にある。
海自の潜水艦は、リチウムイオン電池を活用していて、速力や潜行距離、潜行時間、搭載できる装備が限られている。
一方、原子力潜水艦は、原子炉を活用し、高スピード・長距離・長時間の潜行を可能とする。
また、大型の船体でも長時間の潜行が可能となるため、ミサイルや魚雷の数も増やすことができるなど、装備の選択肢の幅が広がる。
9月19日に中谷防衛相に提出された防衛力の抜本的強化に関する有識者会議の報告書では、ミサイル垂直発射システムを搭載する潜水艦について、「長射程のミサイルを搭載し、長距離・長期間の移動や潜航を行うことができるようにすることが望ましい」と強調。
原子力潜水艦の導入も念頭に、「従来の例にとらわれることなく、次世代の動力を活用する技術開発を行っていくべきである」との考えが示された。
ある幹部自衛官は、潜水艦の戦闘能力について、「空母を空母で倒すことはできない。例えば潜水艦が空母の下に魚雷を発射させたら、1発で空母のキールを壊し、沈ませることができる」と語った。
さらに、「魚雷やミサイルを撃つと、音で自分の位置もばれて、航空機などから探知され、攻撃される。だから素早く逃げることができる原子力潜水艦も有効だ」とも語った。
原子力潜水艦導入にはハードルが…
しかし、現在の海上自衛隊が原子力潜水艦を導入するにはいくつかのハードルがある。
非核三原則を掲げる日本では、原子力を潜水艦で利用することに強い反対の声が出る可能性がある。平和利用を定めた原子力基本法の観点からも大きな方針転換を必要とする。
高額な建造費用がコストも過大となる。
さらに、原子炉を稼働するための音が発生することも課題として指摘される。
運用面について、潜水艦隊の幹部自衛官が、「例えばアメリカの原子力潜水艦の要員は約140人、そのほとんどが原子炉の管理要員。果たして原子力潜水艦を運用できる隊員がそれほどいるだろうか」と指摘した。
現在、潜水艦隊員は約2000人で、海自が保有する潜水艦は22隻。1隻は70人体制で運用している。潜水艦隊の幹部自衛官は「AIなどを利用して省人化を進めたい」とも話す。
ある海上自衛隊幹部は「原子炉を扱える隊員がいない」とも話す。
海自潜水艦の艦内を取材
大型で大きな音を出すが、素早く逃げることができる原子力潜水艦。これに対し、いかにコンパクトに音を出さず見つからないように行動するかを重視した現在の海自の潜水艦。

海自の潜水艦「そうりゅう型」潜水艦「とうりゅう」が報道機関に9月に公開された。筆者も実際に乗艦し、隠密性のためにさまざまな工夫がされていることを実感した。
潜水艦の中は密室で狭く、かなり圧迫感を感じた。

食堂の椅子の下にジャガイモやタマネギを保管するほか、魚雷の下に隊員のベッドが設置されているなど、様々な工夫がされていた。
場所がないため機械室でトレーニングをするという。

また床はゴム製でできているなど、艦内では常に大きな音を出さないように気をつけて生活をし、シャワーは3日に1回という。
潜水艦の任務は隠密性が高いため、どれだけの期間どこで任務するかを家族にも話すことができない。
適性検査を経て潜水艦隊に入っても約2割は途中で辞める隊員もいるという。

そのような過酷な生活の中でも任務を遂行する潜水艦「とうりゅう」の明海勝寿艦長は記者団に対し、「潜水艦特有の隠密性、静粛性、家族に連絡できないところの心構えの徹底」が重要として「ひとりでも抜けると潜水艦を動かすことができないと教育している」という。
(フジテレビ 報道局 防衛省担当 鈴木杏実)