岩手県岩泉町には、ひときわ印象的な地名がある。「安家(あっか)」と「腰巻(こしまき)」という地域だ。どちらも一見すると意味が分かりにくい地名だが、そこには自然環境と人々の暮らしが密接に関わる背景があるという。

「安家」という地名の由来について、長年にわたり県内の地名を調査してきた宍戸敦さんは次のように説明する。

宍戸敦さん
「安家のルーツはアイヌ語の地名の『ワッカ』から来たもの。『ワッカ』は飲み水に使える『きれいな水』という意味。同様に和賀郡の『和賀』も『ワッカ』から来ているものと考えられる。例えば(元和賀郡の)江釣子の湧き水は清流。『安家』も『和賀』もアイヌ語地名と考えられている。ただ、『ワッカ』のみで『安家』になったとは考えづらい。おそらく『ワッカナイ(※北海道に同様の地名あり)』。『ワッカ』はきれいな水、『ナイ』は川だが、きれいな水の流れる川、そういう地名だったのではないかとも考える。それが『ワッカナイ』の『ナイ』が消えて『ワッカ』が残り、今の『安家』という地名に代わっていったのではないか」

その由来を思わせる場所が、今も安家地域に残されている。地域の名水として知られる「安家大清水」は、透き通った水が湧き出る清らかな泉。まさに「ワッカ」の意味を体現するような風景だ。

安家川をたどっていくと、川沿いにバンガローや山小舎が並んでいた。
ここは「氷渡交流施設&山小舎(いこいの家)」で、主に安家川での釣り人などが利用している。

Q:バンガローには「でえばち」とか「おっとんとん」など、一風変わった名前が付けられているが、どんな意味が込められているか?

安家地域振興協議会 佐藤吉晴さん
「地元にある植物や生き物の名前。安家弁でつけた名前で、皆さんはピンと来ないかもしれないが、地元の人なら安家弁だと分かる。『でえばち』っていうのは植物、学名を『オオマムシグサ』といって、茎(偽茎)の模様がマムシに似ている。先端にトウモロコシ状の実をつけるというような植物(※有毒植物)。『おっとんとん』は『おっとんとん』や『おっとん』と夜鳴く鳥。コノハズクの仲間と呼ばれている」

Q:「いこいの家」について

安家地域振興協議会 佐藤吉晴さん
「『いこいの家』がこの施設でもっとも古い建物。昭和58年、地域の人たちがみんなで楽しめる場所をつくろうという声が上がった。労力も材料もみんなで調達して建てた。基本的には郷土芸能の練習や集まりで使う。使いたい人(宿泊客)にも提供している」

岩泉町には川に由来する「腰巻」という地名があります。

宍戸敦さん
「腰巻は、腰(山の麓)を巻いている、小本川が山の周囲を巻いている、あるいは国道が大きく山の周囲を巻いている。そういう地形の場所を『腰巻』と言う」

こうした自然の特徴を地名にすることは多く、自然と人の暮らしが結びついていることが分かる。

岩泉町には、清らかな水や豊かな自然と人々の暮らしが寄り添い形づくられた地域がたくさんある。

岩手めんこいテレビ
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