様々な物が値上がりし、肥料の価格も高騰する中、これまでは廃棄されてしまっていたお茶の「粉」を使ってお茶を育てるという新たな取り組みが始まっている。
抹茶人気も茶農家は蚊帳の外
空前の抹茶ブームに湧く茶業界。
その一方、過去15年間で約2万6000戸もの茶農家が廃業している。
静岡市にある創業約130年のお茶の加工業者・成茶加納。
3代目の加納昌彦 社長も「付き合いのある生産者から年を取り、後継者がいないので栽培面積や製造面積が小さくなったと聞いていた」と明かす。
後継者不足などに加え、苦境の要因として生産に必要な化成肥料の価格高騰の影響が大きいという。
茶の生育を促す化成肥料は使う量を減らした分だけ品質が落ちてしまうとも言われ、そこで加納さんは新たな有機肥料の開発に着手した。
“先例”をヒントに新たな肥料を
加納さんが着目したのは荒茶や煎茶を製造する過程で出る”細粉”だ。

これまではすべて廃棄していたが、茶殻を堆肥に混ぜるという先例をヒントに細粉を使うことで新たな肥料が出来るのではないかと考えた。
現在は取引のある茶農家を中心に細粉を無償で提供している。
費用を抑え臭いも解消
成茶加納の取引先のひとつで、静岡県森町にある大場製茶。
約60年続く茶農家だが、大場英昭 代表も昨今の生産コストの上昇が悩みの種となっていて、「肥料も(約10年前と比べて)だいたい倍の価格になっている。手伝いを頼むにしても人件費なども上がっているのに、その分がお茶の値段に反映されないのがきつい」とこぼす。

そこで、試してみたのが加納さんから提案を受けた方法だ。
鳥の糞などから作られた堆肥と細粉を混ぜて発酵させることで、化成肥料を使う場合と比べて費用を抑えることに成功した上、茶のポリフェノールによって堆肥独特の臭いも解消された。

大場代表は「少しでも化成肥料を減らしてコストを下げたいという課題もあるので、堆肥の量を増やすのもいいかな」と今後も細粉の活用に前向きな姿勢を示す。
メリットある取り組みを広めたい
これまで成茶加納では細粉を1年分溜めた上で清掃工場に持ち込み、約3万円をかけて処分していただけに、加工業者にとってもメリットのあるこの取り組みを全国に広めたいと考えていて、加納社長は「有機栽培は1人や2人の力でできるわけではないので、我々のやり方が少しずつ広がっていき、その先に有機栽培が見えてくればよいと思っている」と意気込む。

環境への負荷も大きく、温室効果ガスの排出を増やす原因とも指摘されている化成肥料。
農林水産省が2030年までに化成肥料の使用量を20%減らすという目標を掲げる中、細粉が県内はもとより茶業界全体の救世主となり得るのか注目されている。
(テレビ静岡)