福島第一原子力発電所で行われている処理水の海洋放出をめぐり、東京電力は9月29日午後0時5分に、2025年度第4回目(通算15回目)の放出を完了したと公表した。9月11日からの19日間で約7,900t(タンク約8基分)が放出され、2023年8月24日の放出開始からの累計で約11万8,000t(タンク約118基分)が放出されたことになる。
“処理水”は、1号機から3号機の原子炉の中に残される事故で溶け落ちた核燃料が固まった“燃料デブリ”に、地下水や雨水などが触れることで発生する“汚染水”から大部分の放射性物質を取り除いたもの。これを海水で薄めて海に放出している。
処理水の放出は、敷地を圧迫する1000基あまりのタンクを減らし、廃炉のためのスペースをあけることが大きな目的のひとつ。2025年9月18日の時点で、処理水等の貯蔵量は放出開始前から約5%減少している。貯蔵されている水の中には、放出の基準を満たせていない“処理途上水”も含まれている。
2025月2月からは、放出によってカラになった溶接型タンクの解体も始まっていて、9月3日に、まとまったエリアとしては初めて「タンク12基分のエリア」の解体が完了。このエリアは3号機燃料デブリ取出し関連施設の建設場所として計画されている。東京電力は廃炉の進捗に伴い、必要な施設を建設するためのスペースを作る計画を立てながらタンクの解体を実施していきたい、としている。
放出開始以降、東京電力は第一原発周辺海域で海水のトリチウム濃度測定を実施していて、発電所から3km以内で700ベクレルを検出した場合には放出を停止することとしているが、これまでにこの指標に達したことはない。
一方、処理水の海洋放出に伴い、中国が日本産海産物の輸入を全面的に禁止したことなどから、ホタテやナマコを中心に取引の中止をはじめとする損害が発生。中国は2025年6月、約2年ぶりとなる輸入再開を発表したが、処理水の海洋放出以前から禁輸措置が取られていた福島を含む10都県からの輸入停止は継続される。
東京電力は、福島第一原子力発電所での処理水の海洋放出をめぐり、2025年8月27日時点で約840件・800億円の賠償支払いを完了している。
また、“汚染水”“処理水”を生じさせる“燃料デブリ”をめぐっても作業に遅れが生じている。
福島第一原発2号機では3回目の「燃料デブリ試験的取り出し」に向け2025年度後半にも投入を予定していた大型の“ロボットアーム”に「カメラが耐放射線性がメーカーの仕様を満たしていない」という不具合が発覚。カメラの交換が必要になったとして、次回のデブリ採取を「2026年度着手」と延期した。
福島第一原発では、事故後13年8か月が経過した2024年11月にようやく、2号機で初めてとなる燃料デブリの採取に成功。その後、2025年4月に2回目の採取を実施した。
格納容器につながる配管の中に、事故の熱で溶けたケーブルなどが固まって詰まっていたため、2回の採取とも、比較的狭い場所を通ることができる“釣り竿型”のロボットを使用。
一方で、78億円をかけて製作した大型の“ロボットアーム”は一部のケーブルが経年劣化で断線していたことが発覚。また、ロボットアームに搭載するカメラを追加して実際の環境を模擬した試験を行ったところ、配管に引っかかるという事象も発生。これに加えて「カメラの耐放射線性」が追い打ちをかけた。
3号機では「気中での取出し」「一部の燃料デブリは充填剤で固めてそれごと取り出す」という大規模な取出しが計画されている。東京電力は2025年7月に格納容器の“横”と“上”からそれぞれ燃料デブリにアクセスする工程案を公表したが、放射性物質の飛散防止などのために設備や建屋を増設する必要があり「準備に12~15年かかる」とした。大規模取出しの開始は2037年度以降とされ、これまで掲げられていた目標である「2030年代初頭の着手」の達成は極めて困難な状況となった。
国と東京電力が掲げる福島第一原発の廃炉の完了は2051年。
処理水タンク内のトリチウムがゼロになるのも2051年とされている。