65歳以上の約7人に1人が抱えているとされる「軽度認知障害」。新しい家電の使い方が覚えられない、料理のレパートリーが単調になったという症状がある場合、それは軽度認知障害の兆候かもしれない。認知症の一歩手前の状態で、早期に対策をすれば認知症への進行を予防できる可能性がある。
「ただの物忘れ」と「認知症の始まり」その境界線とは―
軽度認知障害は、自然な加齢による物忘れと認知症の間の状態と考えられている。認知症と同様、アルツハイマー病をはじめとする何らかの原因で脳の働きが低下することで起こるが、大きな違いがある。

福井県済生会病院脳神経内科の上野亜佐子医師は「認知症は物忘れの進みが早い状態。それに対して軽度認知障害はその前段階で、自然な年齢による物忘れと認知症の間の状態と考えられる」と説明する。
例えば物忘れの質にも違いがある。認知症は「食事をしたこと自体」を忘れてしまうのに対し、軽度認知障害では「食事をしたことは覚えているが、何を食べたかは思い出せない」といった程度の物忘れにとどまる。
両者の違いは日常生活への影響の大きさにある。認知症は自立した生活ができず介護が必要な状態を指すが、軽度認知障害の場合は物忘れはあっても自立した生活を送ることができる。
また、認知症では物忘れの自覚が薄れるが、軽度認知障害では物忘れの自覚がある場合が多い。
リモコンが使えない…日常に潜む危険信号チェックリスト
軽度認知障害には、いくつかの特徴的な兆候がある。
記憶に関しては、「5分前のことも忘れて繰り返し同じことを聞く」「探し物が増えた」といった症状が見られる。
身の回りのことについては、「料理のレパートリーが多かったのに単調になった」「仕事がうまくできなくなった」「新しいテレビのリモコンが使えない」などの変化が現れる。
精神面では、「意欲がなくなった」「怒りっぽくなった」といった兆候が見られることもある。
認知症への分かれ道。まだ引き返せる可能性も
軽度認知障害を放置しておくとどうなるのだろうか。
「認知症に移行する方もいるし、受診してもらって治療することで戻る人もいる」と上野医師。

日本神経学会によると、軽度認知障害の人のうち、1年でおよそ5%から15%の人が認知症に移行する一方で、16%から41%の人は健常な状態に戻ると言われている。この数字は、早期対応の重要性を示している。
脳を元気に!今日からできる予防法と最新治療の最前線
認知機能の低下を防ぐには、頭と心を活性化させることが大切だ。
上野医師は「生活習慣が大事。例えば、コロナの時期、人と話さず家に閉じこもっていたことで、物忘れが進行した人が多かった」と指摘する。
予防対策としては、自分の興味や関心に応じて、人との会話や交流、運動、合唱などの音楽活動、読書や読み聞かせといった活動を生活に取り入れることが推奨されている。
また、治療法も進化している。「2023年にアルツハイマー病に対する薬が新たに使えるようになった。進行を遅らせる効果があるが、早期でしか治療ができない場合もある」といい上野医師は早めの受診を勧める。
今と変わらない生活をより長く続けるために、軽度認知障害の段階で適切な対応をすることで、健やかな生活を維持できる可能性が高まる。
