公共組織トップが相次ぎ失墜 異例の同時期処分
仙台で、二つの公共組織のトップがほぼ同時期にパワーハラスメントを理由に職を退いた。警察署長と国税局長。いずれも高い規範意識と公共性が求められる立場であり、「相次ぐ失墜」は異例の事態だ。背景には何があったのか。

ため息と沈黙で職場を覆った「フキハラ」
「またため息か」。署員たちは日々そう感じていたのかもしれない。
県警によると、仙台北警察署の署長(当時)は署長室や会議の場で日常的に不機嫌な態度をとり、理由も告げずにため息を繰り返した。何が不満なのか説明がないまま、部屋の空気は次第に重くなり、職員は発言を控えるようになったという。
この行為はいわゆる「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」にあたる。日本ハラスメント協会によれば、表情や態度の不機嫌さが続くと「周囲は理由を理解できないまま萎縮し、業務に支障をきたす」とされる。
署長は調査に「申し訳ない」と反省を示したものの、本部長注意処分を受けたのちに依願退職した。県警は再発防止を呼びかけ、他の署長らに「部下が働きやすい環境を確保するよう努めてほしい」と通達を出した。

「動くな、しゃべるな」威圧の叱責 国税局長の言動
一方で、仙台国税局長(当時・58歳)は言葉と行動で部下を追い詰めた。
「俺が話しているときにしゃべるな、動くな」
「なぜ俺の意図を汲んで仕事ができないんだ」
会議室に響く机を叩く音。指で机の端を連打する動作に、部下たちは口を閉ざし、動きを止めざるを得なかった。長時間にわたる叱責や威圧的な態度が繰り返され、国税庁は減給10分の2(3カ月)の懲戒処分を決定。国税局長がパワハラで処分を受けるのは全国で初めてのことだった。
発端は庁内の通報窓口に寄せられた匿名の情報提供。幹部による直接指導を受けても改善されず、わずか1カ月足らずで局長は更迭された。本人は「不安な気持ちがあり、職務に前のめり過ぎた」と釈明し、調査では行為を認めて謝罪したが、被害を受けた職員への直接謝罪は行わなかったという。

重圧の裏に見える共通点 そして組織の対応
警察署長は沈黙と不機嫌で、国税局長は叱責と威圧で。手法は異なるが、いずれも部下を萎縮させ、職場の雰囲気を悪化させた点は共通している。背景には「トップ就任直後の重圧」があったとみられる。署長は数カ月、局長はわずか1カ月にも満たない任期で不祥事を招いた。強いストレスや不安が態度や言葉となって現れた可能性がある。
同時に注目すべきは、組織の対応である。県警は本来公表しない「本部長注意」を異例に発表し、国税庁は内部通報制度を活用して調査を進めた。かつては隠されがちだった不祥事を「公表する」方向へ切り替えた姿勢は、時代の変化を映し出している。
かつては「厳しい指導」とされてきた態度が、今では「ハラスメント」と判断されるケースが増えている。処分を受けた二人の行為は、こうした社会の価値観の変化を象徴しているといえる。

あなたの職場は大丈夫?
ため息ひとつで空気を支配する上司。机を叩いて部下を威圧する上司。あなたの職場にも、似たような光景はないだろうか。
公共組織のトップがパワハラを理由に退いた今回の事態は、単なる不祥事ではなく、誰もが働く環境の在り方を考え直す契機である。権力とハラスメントは紙一重。その危うさに、社会全体がどう向き合うのかが問われている。