昭和の時代に習い事の定番だった“そろばん”が、いま再び人気となっています。その背景を調査してみると、兵庫県姫路市の教室では「画面共有します」の声が。

そう、コロナ禍で普及した「オンライン教室」がその背景の1つにありました。

そして再ブームに伴い“そろばんの街”では急速に高まる「そろばん需要」に悲鳴の声もあがっていました。

■小学生の習い事ランキング6位 野球やサッカーを超える人気ぶり

大阪市旭区の住宅街。夕方になるとやって来る子どもたち。

部屋の中で行われていたのは…。

「願いましては13円なり、25円なり」

そう、“そろばん教室”です。

50年以上前から続く「菊水はしでら珠算教場」。小学生を中心に、幼稚園児から高校生までが学んでいて、その光景はまさに“昭和”を彷彿とさせます。

【菊水はしでら珠算教場 澤田悦子塾長】「349円なり、968円なり、807円なり、583円なり、294円では」
【生徒】「はいはいはい!2951」
【菊水はしでら珠算教場 澤田悦子塾長】「おしい!」
【別の生徒】「3001」
【菊水はしでら珠算教場 澤田悦子塾長】「ピンポン!」

この教室では、ことし4月の入会者数が去年と比べ倍増。

いま“そろばん”人気が再来しているのです。

昭和の時代、習い事の定番だった“そろばん”。昭和61年、教室の数は全国におよそ1万3000カ所ありました。

しかし、近年、習い事の多様化などが原因で、教室の数は半分以下に。

このまま人気がなくなるかと思いきや…去年の小学生の習い事ランキングでなんと、そろばんが堂々の6位に!

そろばんは今や、野球やサッカーを超える人気ぶりとなっているんです。

■“そろばん人気”が高まる背景 「計算が早くなる」「頭が良くなる」と小学生

(Q.スマートフォンがあればそろばんは必要ないのでは?)
【そろばん歴7年・小学6年生】「違います。計算が早くなる。お釣りがすぐ分かるから、『こんくらいお釣り余るから、次は何買おう』って先、考えられる」

【そろばん歴2年・小学3年生】「そろばん見たら、めっちゃ昔っぽい。俺って昔のころ嫌いやねん、昭和とか」
(Q.けど、そろばんは昔では?)
【そろばん歴2年・小学3年生】「せやな…。ま、ま、ま、ま、頭良くなるんやったらいいなって」

【小学1年生の保護者】「私たちどんどん機械に頼ってしまって、習ってましたけど計算もできないし、パパっと計算できると、1人でおつかい行くのにも役立つかなと」

“そろばん人気”が高まる背景について、50年以上指導する全国珠算教育連盟の理事でもある澤田塾長は…。

【全国珠算教育連盟 澤田悦子理事】「(昔に比べて)今は幼稚園児や1年生が多い。『計算力を付けるのに、そろばんは必要』ということを保護者も再認識されて、また徐々に復活してきてるのが現状と思います」

また連盟の調査によると、子供にそろばんを習わせている親の半数以上が、「中学受験の意向がある」回答したということです。

■そろばんの町“小野市”を取材 ブームに市の担当者「うれしい」

このブームに関西の“あの街”は…。

【記者リポート】「“そろばんの街”があるということで、今向かっています」

取材班が訪れたのは兵庫県・小野市。小野市は、「そろばんの生産量日本一」。

街を歩いてみると…。

【記者リポート】「見てください。非常に大きなそろばんがあります」「マンホールよく見ると、そろばん模様になっています」

さらに博物館まで!まさに「そろばんの街」。

市の庁舎にも、もちろんそろばんをモチーフにしたデザインが…。

市の担当者は、このブーム再来をどう感じているのでしょうか。

【小野市産業創造課 多鹿凌平さん】「うれしく感じております。どんどんそろばんが人気になってくれたらうれしい」

■製造・販売する会社は注文増えて「うれしい」 一方「人手不足」が課題

一方で、そろばんを製造・販売する会社はどう感じているのか。小野市にある創業100年を超える「ダイイチ」をのぞいてみると…。

【株式会社ダイイチ 宮永信秀社長】「注文数が上がってきたっていうのは実感しています」

ダイイチでは、新型コロナウイルスが蔓延して以降、「生産量が増えた」といいます。

「昭和の時代の全盛期と比べると足元にも及ばない」といいますが、1カ月およそ600丁ものそろばんを製造しています。

注文が増え、うれしい反面、ある悩みが…。

【株式会社ダイイチ 宮永信秀社長】「純粋に増えことはうれしかったが、工場の子たちが結構大変な思いをしていた」

再ブームに重なったのは「人手不足」。

ダイイチでは、職人4人体制で製造を行っていますが、ことしは受注を減らしているといいます。

【そろばん職人】「忙しいですね。ちょっと手がまわりきっていないぐらい忙しい」

なぜ、コロナをきっかけに生産数が増えたのか?

【株式会社ダイイチ 宮永信秀社長】「“オンラインのそろばん塾”が、コロナの最中から取り入れられるようになってきましたので、1つの要因としてあると思う」

■“オンライン”で教室は無人 モニターには多くのそろばん

そろばん人気に拍車をかけたのは“オンライン”そろばん教室?

その実態を探るべく、取材班が向かったのは、姫路市にある楽珠そろばん教室。

【記者リポート】「兵庫県のそろばん教室にきています。今から授業があるということですが、生徒の姿はありません」

授業前ですが、生徒は誰もいません。

【楽珠そろばん教室 十川未咲講師】「よーい!はじめ!」

掛け声は、通常のそろばん教室と変わりませんが、そこには、先生1人とパソコンが2台だけ…。モニターには多くのそろばんが映っています。

【記者リポート】「教室内は珠を弾く音1つ聞こえません。非常に不思議な感じがします」

■1コマで40人の生徒 生徒数は5年で倍に

オンラインならではのこんな光景も…。

【生徒】「分からない問題あるんだけど、4332÷76は何ですか?」

【楽珠そろばん教室 十川未咲講師】「画面共有します」

【記者リポート】「パソコン上に、そろばんが現れています」

さらに…。

【楽珠そろばん教室 十川未咲講師】「ミュートを外して挨拶しましょう。姿勢を正して、これでそろばんの授業を終わります。ありがとうごいました」
【生徒】「ありがとうございました」

【記者リポート】「生徒がどんどん退出しています」

この1コマだけで、およそ40人の生徒がオンラインで参加していました。

現在オンラインの生徒数は、およそ450人にも上ります。

もともと対面授業のみを行っていたこちらの教室。コロナ禍をきっかけに2020年からオンライン授業を取り入れ、全体の生徒数は5年前に比べ倍増しました。

■オンライン教室はアメリカからも「世界中どこにいても習える環境」

なぜオンライン教室が人気なのでしょうか?

(Q.今住んでいるところ教えてもらってもいいですか?)
【生徒】「滋賀県に住んでいます」
【生徒】「兵庫県に住んでいます」
【生徒】「アメリカです!」

なんとアメリカからの受講者も。

【楽珠そろばん教室 畠中卓人代表】「そろばんに通いたいけど、通えない方が結構いらっしゃると思うんですよ。世界中どこにいても、そろばんを習える環境を作れるのは、オンラインならではと思います」

取材で見えてきたのは、そろばん人気の新たな一因「オンライン教室」の存在でした。

時代と共に変化するそろばんの形。

今後どのようなブームを巻き起こすのでしょうか。

(関西テレビ「newsランナー」2025年9月16日放送)

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