袴田巖さんが2024年9月に再審で無罪判決を受けた後、畝本直美 検事総長が「到底承服できない」などと記した談話を発表したことを受け、袴田さんは9月11日、慰謝料などの支払いと謝罪広告の掲載を求め、国を提訴しました。
1966年6月30日に清水市(当時)にある味噌製造会社の専務宅が燃え、焼け跡から多数の刺し傷がある一家4人の他殺体が見つかったほか、現金などが盗まれた強盗殺人放火事件をめぐっては、元プロボクサーで味噌工場の従業員だった袴田巖さんの死刑が一度は確定したものの、やり直しの裁判を経て、2024年9月に無罪判決が言い渡されています。
これを受け、判決公判から12日後の同年10月8日、畝本直美 検事総長は談話を発表し、「袴田さんが結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至った」と控訴を断念する考えを明らかにしつつ、判決については「到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われる」と不満を滲ませました。
こうした中、袴田さん側は2025年9月11日、談話は袴田さんの名誉を毀損するものとして国を提訴しました。
訴状では、談話の冒頭「再審開始を決定した令和5年3月の東京高裁決定には重大な事実誤認があると考えました」と記していることについて、「『4人を殺した犯人は袴田であるとした確定判決は正しいから、再審開始決定は間違いである』と言っていることを意味している」とし、「本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます」との記載については「無罪判決は間違っているから控訴すべきものであり、控訴審で破棄させ、4人を殺した犯人は袴田であると認定させるべきである」との考えを明確にしたものであることは明らかなどと指摘しています。
その上で、「無罪を言い渡された者を犯人呼ばわりすることは名誉毀損にあたることは議論の余地はないから、検事総長談話が原告の名誉を毀損するものであり、その毀損の程度は著しい」と非難すると同時に確定無罪判決尊重義務違反に当たるとも主張しました。
このため、精神的苦痛に対する慰謝料など計710万円の支払いと共に、名誉の回復に向けて最高検察庁のホームページに謝罪広告を掲載するよう求めています。
提訴にあたり袴田さんの姉・ひで子さんは「個人的にはともかく、職業柄あのように言わざるを得なかったと思っている。これからも後に続く人たちがいるので弁護士には頑張ってもらいたい」と述べました。