初秋を迎えた石川県輪島市門前町の高根尾地区。住民たちは地震と豪雨による厳しい現実を受け止めながら、これからの暮らしを模索している。
地震と豪雨で大きな傷を負う
8月、輪島市門前町の高根尾地区。区長の中橋政久さんがもぎたてのイチジクを差し出してくれた。「色があっても固いのがある。はい食べてみて」

中橋さんは2025年、コメ作りに必要な農機具を新調した。「今までのは十何年使っていたし、この機械は初めて。メーカー初めてなので不慣れなんですね。前の機械が去年の9月21、22日の水害にあってその機械が使えなくなって、この機械と計量機を新たに入れた」高根尾地区は能登半島地震で27世帯のうち20世帯の家が全壊し、3人が亡くなった。さらに豪雨では田んぼに土砂が流入し、二重の災害に見舞われた。豪雨の後、中橋さんは「これから果たして、さあ元通りまた頑張ろうかという気持ちになれるのかどうか、果たして田んぼが果たして復旧するのかというのは今ものすごい心配なんです」と話していた。
収穫の秋が始まる
2025年は規模を縮小してコメ作りを行っている。中橋さんは「地震前、水害前の状態に戻って平穏な生活と順調な農作業ができればなと思ってはおるんです。2、3年かかるんかもしれん、その過渡期かもしれないですけど、みなさん力を合わせて一刻も早く元へ戻そうという気持ちで今取り組んでいます」と根気強くコメ作りに向かっていた。新しい機械で行う初めての精米作業は、集落で一番早く取れる田んぼ1枚分のコメ。力強い精米機の音が実りの秋の始まりを告げた。この日は金沢の息子や孫も参加し、中橋さんはとても嬉しそうだった。

昔から田植えや稲刈りなどを地域全体で支え合ってきた高根尾地区。今はほとんどの住民が仮設住宅で暮らしているが、月に1度、みんなが集まる機会を作っている。「これ家ありません、もうないんですよ」と倉橋喜世美さんが自分の土地を見て話した。

地震の前までお隣同士だった倉橋さんと杉山ふじ子さん。倉橋さんの敷地のすぐ上に杉山さんの家がある。杉山さんは地震から1年半経って、ようやく家を修理することを決めた。
「セミの声で癒される」
杉山さんは「(倉橋さん)は潰してしまった、うち。そしたらわて寂しくなって、それから悩んで、この人おらんでどうしようって思っとったら。うち潰すにも潰されんし、最後の最後まで悩んだ」と話す。一方、倉橋さんは「私も名残はあるけど、それでもあとのこと考えて、100年残ったらこの後大変やろうな、子どもが大変やろうなと思って、考え違うげん」と説明する。

40年、隣で暮らしてきた2人。倉橋さんは13年前に夫を亡くしたが、すぐそばにいつも杉山さんがいた。「夕方また、あれやったら会いましょう。ありがとう」と2人は別れた。杉山さんは「仮設も2年もおるといいげんよ愛着わいて。だけどね秋のセミの声ってものすごくさみしいというか本当になんとも言えない気持ちになる。なんというかここから離れたくないってセミの声で癒されるげん。それでやっぱり家はいいわって」としみじみと語った。高根尾地区では2026年3月までに7割の世帯が自宅を再建予定だという。秋の稲穂は今年も輝いている。
(石川テレビ)