マダニが媒介する感染症『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』の患者数が過去最多を更新し続けている。しかも今年は、これまで感染が確認されていなかった関東や北海道でも患者が報告され、全国に急拡大しているのだ。
SFTSはマダニに刺されることで感染する“ダニ媒介感染症”。発症すると入院が必要となることが多く、一旦発症すると高齢者では致死率も高い。病名の最初に『重症』とつくことからも危険な感染症だと分かる。
国内の最初の症例報告から12年。なぜ今、感染者が急増しているのか?感染症学が専門の昭和医科大学・二木芳人名誉教授に詳しく話を聞いた。
異常気象がマダニ媒介感染症を増やす
【昭和医科大学 二木芳人名誉教授】
マダニは、ウィルスや細菌などの病原体を保有し、吸血する際に人や家畜、ペットなどに病原微生物を感染させる節足動物です。
病原体がどこから来るかというと主に野生動物です。鹿、イノシシ、ウサギ、ネズミなどの野生動物についたダニが吸血して病原体を持ち、人間やペットを吸血して感染させるのです。
ここ数年の記録的な猛暑で野生動物の餌が激減、本来いるはずのない市街地まで出没し、民家や畑、草むらなどあらゆる場所にマダニを落としていっています。
野生動物から落ちたダニは、草の一番上まで行って手を広げて次の獲物を待ち、そして人やペットが近づくと、飛び移って血を吸い感染させるのです。
気候変動による生息地の変化や宅地開発などで野性動物との接触機会が増加し、人間社会にダニ媒介感染症が広がっていると考えられます。
症状が重く、感染したら入院…
SFTSは、“重症”“熱性”“血小板減少”症候群。その名の通り、発熱や下痢・おう吐などの消化器症状から始まり、重症化すると出血傾向(出血しやすい、血が止まらない状態)や意識障害が起こり、死に至ることもあります。

厚生労働省によると、わが国に於けるSFTSでの致死率は全体で10.6%(1185人中126人)。高齢者ほど患者も多く致死率は高くなり、80歳以上では16.5%に上ります。※データはいずれも2025年7月末現在
潜伏期間は7~10日とされていますが、報告書では6日~2週間と幅があります。マダニにかまれたら、2週間程度は様子を見て下さい。そして発熱やおう吐、下痢などの異変があったら、躊躇(ちゅうちょ)せず病院に行って下さい。
ワクチンはない。予防は“かまれないこと”
SFTSウィルスを保有しているマダニは、症例が出始めた頃は1%程と言われていました。しかし最近の患者数の増加をみると、その比率が上がってきている可能性があります。
マダニにかまれたからといって必ずしも感染・発症する訳ではありませんが、発症すると重症化の可能性が高いので、十分な注意が必要です。
SFTSにワクチンはありません。防ぐ方法は「マダニにかまれないこと」。SFTS感染のリスクの高い地域で山などへ行く時は、肌の露出を極力なくす、忌避剤(ダニ避け)を用いるなどの対策をして下さい。
*服装は長袖長ズボン。特に足元が危険なので、長ズボンの上からハイソックスを履くなどして隙間を作らない。
*首回りもタオルを巻くなどしてしっかりカバーする。
*服の上から忌避剤のスプレーなどをかける。必ず「ダニ避け」と明記してあるものを選ぶ。
*帰宅したら一番上の衣類を脱いでダニがついていないか確認。足元も細かくチェックする。
それでもかまれていたら、自分で処置をせず、ダニがついたままの状態ですぐに医療機関に行って下さい。皮膚科や救急がベストですが、近隣になければ内科でも大丈夫です。
自分で取ると皮膚の中にマダニの口が残ってしまう危険がありますし、上から潰したら体液が体内に入って感染が成立してしまいます。
ペットも同様です。ダニを見つけたら動物病院につれて行き、早めに処置をしてもらって下さい。
治療薬はあるが、基本は対処療法
先にも述べましたが、SFTSにはワクチンがありません。治療薬としては昨年、「アビガン」が承認されました。一時、コロナで話題になった抗ウイルス薬です。もともとは新型インフルエンザの薬で、同じ系統、RNAウィルスのSFTSにも効果が期待されています。
ただし、効果や安全性についてはまだ評価の途中段階です。ある程度の有効性はあるようですが、最終評価にはまだ時間がかかります。
現状は対症療法(症状を抑えるための治療)、すなわち解熱剤や下痢止め、止血剤の投与、全身状態の管理などが主になります。
人から人へも感染 ペットからも…
SFTSは「人から人」、「動物から人」への感染が確認されています。
マダニに直接かまれるだけでなく、感染者の唾液や咳、たん、血液からもうつります。
また感染した犬や猫などの体液(血液や排泄物など)との接触でも感染します。コロナやインフルエンザほど感染力は強くないようですが、まだ情報が不足していますので、感染する可能性があることは知っておいてください。
マダニの活動時期は長い…
マダニの活動は春(3月)から秋(10月)にかけて活発になります。
これから紅葉シーズンを迎え、登山やキャンプなど自然を楽しむ機会が増えると思います。重症化や死亡率の高さからも「うっかり感染した」では済まされないSFTS。服装などでしっかりガードして、行楽を楽しんでいただければと思います。
(昭和医科大学 二木芳人 名誉教授)
取材:高知さんさんテレビ