日本トップクラスの消防隊員が磨き上げた技術を競う全国大会。
どこの消防本部が日本一になるのか、全国の精鋭たちが集結した「全国消防救助技術大会」に大阪南消防局のチームが出場しました。
2年前の「失格」の無念を晴らすべく特訓を重ねる隊員たちに密着しました。
■ことしは何としてもリベンジしたい
大阪南消防局は柏原市、藤井寺市など8つの市町村をカバーし、管轄エリアの広さは大阪府内でトップ。
昼夜を問わず地域47万人の命を守っています。
この消防局から全国大会に出場するのが、棚原恭也さん、松尾祐平さん、山崎慎さん、岡田裕史さん、北浦健さんの5人です。
体力・走力・判断力の高さが自慢の精鋭たちです。
「ことしは何としてもリベンジしたい」と語るのは山崎慎消防司令補。
彼らが出場するのは「障害突破」の部門です。
「塀を乗り越える」「はしごを上る」「ロープを渡る」「壁を降りる」そして「ボンベを着けて煙道を通る」など、1分1秒を争う救助現場を想定した競技で、技の正確さと速さを競います。
2年前の全国大会では、機材の部品の一部が飛んでしまい失格に。最後まで走り切ることができなかった無念の経験があります。
今年こそは日本一に輝きたいという強い思いを胸に、前回の大会を経験した3人に新メンバー2人が加わり、4月から本格的な特訓が始まりました。
■「あれで変わるやろ、コンマで負けるぞ」
練習中、チームの最年少である松尾祐平さん(22歳)が注目を集めています。
競技の最後、ゴールまでのダッシュで遅れがちな松尾さんに対し、リーダーの山崎さんが厳しい言葉を投げかけます。
「お前、ダッシュ遅い」と山崎さん。
「あれで変わるやろ、コンマで負けるぞ」と岡田さんも続きます。
消防士になって4年の松尾さん。
小さなミスが大きなタイムロスにつながるこの競技では、素早くなおかつ丁寧な動作が求められます。チームメンバーの厳しくも温かい指導の下、練習を積み重ねていきます。
「厳しいことも言ってくださって、逆に僕がミスして『やってしまった』って落ち込んでいるときは、『気にすんな、俺らがカバーしたる』って言ってくださる。僕は全国出場が今回初めての大会なので、ビビらず今までやってきたことを全部、自信をもってできるように頑張っていきたい」と松尾さんは意気込みます。
大会直前の通し練習では「79.4秒」という、全国トップクラスのチームよりも10秒以上速いタイムを記録。
山崎リーダーは「松尾は急成長した。絶対日本一取るぞという、みんなの気持ちが一つにまとまれば、絶対いける」と手応えを感じていました。
■「あきらめんな、あきらめんな!」
いよいよ全国消防救助技術大会当日。
全国248の消防本部から、およそ900人が兵庫県に集結しました。
【神戸市消防局・第53回全国消防救助技術大会担当者】「この大会は全国各地から約900名の隊員が集まります。それぞれ訓練の成果を披露し、競い合うことを通じて、より一層技術力を高めていくことを目的としています。
今年は阪神淡路大震災から30年の年でもあります。震災当時は、全国から消防隊に駆けつけていただきました。今大会を兵庫県で催すことで、消防隊の皆様に当時の感謝を伝えたい、そういう気持ちで開催しています」
大阪南消防局からは「障害突破」のほかにも「ロープブリッジ救出」部門にチームが出場。こちらのチームはミスなく好タイムをたたきだし、見事1位に輝きました。
さて、いよいよ「障害突破」の出番です。この時点での1位は同じく近畿代表の兵庫・伊丹市消防局。記録は「82.6秒」とかなりの好タイムでした。
会場には松尾さんの父・克也さんの姿も。消防隊員の克也さんは息子が練習する姿を見守ってきました。
「大阪府・大阪南消防局」とアナウンスされ、競技開始。
1人目が建物の間をロープで渡った次の瞬間、観客がどよめきました。
リーダーの山崎さんの体が反転する痛恨のミス。赤い命綱がロープに絡まり、後ろに引っ張られたことが原因でした。
「あきらめんな、あきらめんな!」と岡田さんが声をかけます。
何度も練習したボンベの装着は素早くクリア。観客からは「走れ走れ!」という声援が飛びます。
しかし、減点が大きく、入賞すらできませんでした。それでも、タイムは94.6秒と22チーム中5番目という健闘を見せました。
■「次につなげよう」
「しゃあないっすよ。一か八かです」と棚原さん。
「誰がなってもおかしくないやろ。次につなげようや。松尾と棚原に関しては、来年、絶対取りに行かなあかんし、来年行こう!」と岡田さんも前を向いています。
松尾さんの父・克也さんは「全員があきらめることなく訓練重ねてきて、今までやってきた訓練自体が消防にとって大事なことなんです」と息子たちを労いました。
リーダーの山崎さんは「このチームでやってきて、散々偉そうなこと言うてきたんですけど、僕がやらかすっていう、周りのみんなに申し訳ない。いつまでも下向いていてもダメなんで、次につなげたいと思います」と悔しさをにじませながらも、前向きな気持ちを語りました。
松尾さんも「日々の訓練を見てくださった上司の方のおかげで、この素晴らしい舞台で操法させていただいたので、次、来年に向けて、自分が日々の訓練頑張っていきたいと思います」と決意を新たにしていました。
悔しい結果となったものの、挑み続けた隊員たちの夏の経験は、これからの救助活動の大きな力になっていくことでしょう。
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月3日放送)