リモートワーカーの約8割が抱える「不安」

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、リモートワーク(テレワーク)を取り入れる企業が増えていて、ソーシャルディスタンスが重要視される現在には適している勤務形態ではある。

だが、すでにリモートワークを取り入れている人たちの中には、「メールでのやりとりが増え、うまくコミュニケーションができない…」「仕事の進みが遅くなった?」など、“やりにくさ”を感じている人も少なくないのではないだろうか。

そんな「リモートワーカーの不安」について、クラウド人材プラットフォームを開発・販売する株式会社カオナビが調査結果を公表した。

調査は、有業者(自由業を除く)のうち、従業員数10人以上の会社に勤める人で「勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している」もしくは「基本的に毎日、リモートワークで働いている」を選択した300人を対象としたインターネットリサーチ(2020年8月21~24日の4日間、全国20歳~69歳の男女が対象)。

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「リモートワークをしていて不安があるか」という質問には、77.3%の人が「何かしらの不安がある」と回答。

「不安」の具体的な内容としては、「自分の仕事の質や生産性が落ちているのではないか」というものが最も多く、27.0%。

そして「部署、チーム、組織として、成果や提供価値の質が落ちているのではないか(23.7%)」「自分がさぼっていると周りに思われているのではないか(22.3%)」と続いた。

ちなみに、部下の立場に絞ってみると、全体の回答では3位の「自分がさぼっていると思われているのではないか」という不安が25.5%で1位だった。

上司と部下で「サボり」への意識に差

たしかに、リモートワークでたびたび議題となるのが、個人の仕事の進捗状況がわかりにくく、結果的に仕事の質が落ちてしまうのではないか、ということ。

これら「仕事の質・生産性・チームとしての結果」を不安視する声は上司・部下どちらの立場からも聞かれたということだが、一方で「上司・部下の立場の違い」で大きく差が出た項目があるという。

特に差が大きかったのが「周りがさぼっているのではないか」「他の社員の業務で問題が起きた時に、自分が気づけないのではないか」「中長期的に、自組織の業績が下がるのではないか」という3項目だ。
 

「他の社員の業務で問題が起きた時に、自分が気づけないのではないか」という不安や「中長期的に、自組織の業績が下がるのではないか」については上司と部下の立場の違いといえるが、「サボり」については不安の矛先が違っていた。

「周り」への不安は21.0%の上司が感じているのに対し、部下側ではわずか5.1%。一方で上述の通り、部下の1番の不安が「自分」がそう思われることなのだ。

リモートワークが増え、顔を合わせての仕事が減っている今、上司の立場としては普段以上に部下たちの行動に目を光らせたくなる気持ちは想像できるし、部下は「普段通り仕事をしているけれど、証明できないし…」とソワソワしてしまうのもわかる。

今後も増え続けるであろうリモートワークの機会、こうした疑心暗鬼を上司と部下はそれぞれどのような心構えで解消するべきなのか。カオナビHRテクノロジー総研 研究員の齊藤直子氏にお話を聞いた。

リモートワークへの不安は「妥当なもの」

――今回、このような調査をしたきっかけは?

この度は新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、リモートワーク等の「出社をしない」働き方に注目が集まりました。弊社カオナビをはじめとして、HRテックと呼ばれるITツールがその働き方に寄与できるのではないか、そのような考えから弊社としてもリモートワークの実態を知りたいというニーズがありました。

また世の中としても、感染対策として半ば「せざるを得ない」ところから始まったリモートワークでしたが、徐々にそのメリットにも目が向き、リモートワークで機能する人事制度や雇用のあり方という議論にも、5月の段階で進展しそうな気運がありました。

こんなタイミングではあるものの、「より良い働き方」を日本全体が求めていくある意味チャンスなのかもしれない。その一助となるような調査がしたいと思い、5月に「リモートワーク実態調査」を実施しました。その調査は、全国的な緊急事態宣言下という特殊な状況でしたが、緊急事態宣言が解除されてどうなるのかという「フォロー調査」も実施したいという思いが生まれ、8月にその実施をしたという流れになります。


――8割近くの人がリモートワークに不安を感じているという調査結果について…

リモートワークに限らず、新たな試みをする際に、何かしらの不安があるというのは当然かと思いますので、全体の割合については妥当であると感じました。

リモートワーカー(8月調査時は、リモートワークを勤務時間の半分以上している人と定義。以下同様)の約4人に一人は、自分やチームの”生産性やアウトプットの悪さ”に不安を持っています。この点についても、違和感はあまりありませんでした。

というのも、弊社の5月の調査時にリモートワーカー(5月調査時は、「毎日リモートワーク」もしくは「週に2~3日出社し、その他はリモートワーク」をしている人と定義。以下同様)の「生産性実感」について聞いており、通常のオフィス出社時と比較して「生産性が下がった」と感じる人が38.0%となったという結果を見ていまして、乖離をそれほど感じなかったからです。

ということで、個人的にはこの結果に驚きはあまりないのですが、「リモートワークの生産性」というのは、深いテーマであると感じています。弊社の調査も読み替えれば、約4人に3人は”生産性やアウトプットの悪さ”に不安を持っていない、ということですが、他社調査でもリモートワークにおける生産性の評価は真っ二つというところです。

恐らく、どんな業種や職種なのか、前提となるIT環境の整備状況がどの程度か、所属組織の風土や文化はどのようなものか、業務への習熟度がどれくらいか、家庭や住居の環境がどのようなものか、どのようなコミュニケーションを好むのか…など、様々な変数がリモートワークにおける生産性に影響しているため、一概には言えないということだと思います。このメカニズムについては、もう少し詳しく調べてみたいと感じています。

リモートワークの構造を理解して無理のない「チェック」を

――上司は「周りがさぼっている」部下は「自分がさぼっていると思われている」…この不安にどう向き合うべき?

まず組織的な対応も含めて、以下のような方向性があるのではないでしょうか。

(1)さぼりを「問題ないもの」にしてしまう
(2)さぼりがお互いに分かり、抑止する環境を整備する
(3)お互いが「さぼっていないだろう」と感じられる、信頼関係を醸成する


(1)は、成果主義的な在り方を作っていくということです。純粋に業務を通じてなされたアウトプットや成果を評価すること、そのためには少なくとも「その業務の成果とは何か」が定義される必要があります。人事評価制度をはじめとして、一体的に雇用・人事制度の在り方を見直す必要があるケースがほとんどでしょう。

(2)は、つまり「監視」ですが、例えば「webカメラで常時、勤務態度を観察する」というような監視度が高いものから、「週に1度の業務進捗報告ルールを設ける」というような監視度が低めのものまで、様々な方法があるでしょう。しかし一般的には、「監視されている」という感覚はストレスになりますので、あまりに監視度が高い方法は避けた方がよいということになります。

(3)はそのままですが、基本的にはコミュニケーション量を増やし、お互いの理解を深めることが必要となります。具体的には、定期的に1on1のような面談を実施するなど、コミュニケーション機会を設けるような施策が想定されます。当然、コミュニケーションの質の向上も重要で、お互いが「何らかの意味がある」と思えないと、「無駄なコミュニケーション」であると感じて逆効果、ということも起こりえます。

(1)はもちろん有効ですが、上司の立場であってもすぐに変更できる点は少ないかもしれませんし、非協力的な風土を形成しやすいなどのデメリットもあります。現場レベルでは(2)、(3)の方向性を検討することになる場合が多いでしょう。

(2)と(3)を比較すると、恐らく多くの人は(3)が心地よく、積極的にその施策を取りたくなるかと思います。ただ、私はここに落とし穴があるかと思っています。

チームでのコミュニケーションを活性化することも効果的(イメージ)
チームでのコミュニケーションを活性化することも効果的(イメージ)

リモートワークは基本的には、お互いが働く様子が見えないため、オフィス出社時には無意識に目に入った、耳に入った情報が取得できない状態です。「分からないもの」に対して疑いを持つ、というのは人間の自然な心理です。どんな人であっても、疑いや猜疑心を増幅させやすい構造が、リモートワークということです。

そういう意味では、上司も部下も「お互いがお互いを、疑いやすい構造に置かれているのだ」と理解し、(2)の監視的な施策の中で許容できるものを採用することは、無用な不安の抑止にもなるでしょう。

基本的には、お互いが積極的にコミュニケーションを取ることを意識して、善意を信じながらも、不安の増幅をさせないよう業務進捗のチェック機能を埋め込む、という方向性です。

また(3)のコミュニケーション施策も、上司と部下の1対1の関係性に閉じずに、チームでのコミュニケーションを活性化することや、チャットや社内SNSを活用したテキスト&非同期型コミュニケーションを活性化するなど、様々なものが考えられます。むしろオフィスにいたときよりも選択肢は多いかもしれませんし、ITツールも日々進化していてエンターテイメント性が高いもの増えています。チームで半ば楽しみながら、導入ツールを検討してみるのもよいのではないでしょうか。


上司と部下の差の大きかった「サボり」に関する意識。

もちろん「このチームなら、誰もサボっていないはず!」と思える関係性を築くのは大切かもしれないが、齊藤氏が指摘するのはそもそもリモートワークが「お互いを疑いやすく、猜疑心を増幅させやすい構造」だということ。

その中で「サボっていないか心配」「サボっていると思われそうで心配」という上司・部下どちらの立場の不安もいたずらに膨らませず、よりスムーズに業務を進めていくためには、コミュニケーションを活性化して信頼関係を築きつつ、強制的・過干渉でない範囲でのチェック体制を整えることがカギとなりそうだ。

リモートワークの是非に改めて注目

――改めて、リモートワークのメリット・デメリットとはどんなものがある?

調査を通じて、大きなメリットだと感じるのは「働く人にとって、働きやすい」ということです。5月調査時点でも、リモートワークを働きやすいと評価する人が45.0%、どちらでもないが29.3%と、少なくとも75%弱の人が「出社と同様の働きやすさはある」と回答しています。その時は多くの組織で、リモートワークは半ば「突貫工事」でしょうから、基本的に「リモートワークは出社よりも働きやすい」と言えるでしょう。

リモートワークの働きやすさの大きな要因は「時間のゆとりができる」ということです。労働以外の様々な活動時間が増えていますし、5月の調査でも「通勤時間がなくなり、時間のゆとりが持てるようになった」というのがメリットの1位として挙げられていました。

この「時間のゆとりができる」というのは、従業員自身が感じられるメリットでもありますし、それを通じて企業が感じることができるメリットもあるかと思います。リモートワークによって、「仕事につながる自己研鑽・学習の時間」が増えたと回答した人もいました。

リモートワークにするだけで、企業は従業員への教育投資をすることなく、やる気のある層の学習を促すことができる、という捉え方もできます。また、従来は育児や介護をはじめとする、時間制約があるために働けない、もしくは働きづらいと感じていた人たちでも、リモートワークであれば働き続けられる、というケースは多くあるでしょうから、人材活用の視点からもメリットがあるでしょう。そしてこれは、労働力人口の確保という面で、日本社会にとってもメリットです。

デメリットについては、働く人にとっても、企業にとってもですが、「従来のマネジメントが通用しない」ということに尽きるかと思います。これまでと同じ方法では、生産性が落ちることも、不安に感じることもあるでしょう。新たなマネジメントを考え、試すのは、シンプルに様々な負担がありますし、失敗もあると思います。

ここからはご質問への回答というより、私の考えですが、当然、リモートワークができない業種はありますし、今回リモートワークを経験してみたことで「わが社の競争力の源泉は、むしろオフィスに出社することにあった」と気づいた企業も存在すると思います。リモートワークが絶対に良い、と言うつもりは全くありません。

ですが、「時間や場所にとらわれない新しい勤務形態であるリモートワークという“武器”が新たに手に入った」と考えて、「どうしたらその武器がうまく使えるか」という発想を持つこと、そしてそのために新たなマネジメントの在り方を模索することで、手に入るものがあると考えます。少なくとも、今回リモートワークを経験した人は劇的に増え、リモートワークを望む人は増えるはずなので、採用競争に勝ちたいと考えるのであれば、企業としてもリモートワークを整備する動機があるはずです。


今後も増え続けるであろうリモートワーク。
場所や時間に縛られない自由な働き方にはメリットも多いが、導入してみて初めて発見された躓きもあるだろう。改めて、リモートワーク環境のチェックが必要になってくるかもしれない。


(調査結果出典:カオナビHRテクノロジー総研)
「リモートワークで生まれた余裕と不安~リモートワーク実態フォロー調査レポート2~」調査結果はこちら https://ri.kaonavi.jp/20201001/

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プライムオンライン編集部
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